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[BookReview] 鈴木良隆 他『MBAのための日本経営史』

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▼Week05-#01:鈴木良隆・橋野知子・白鳥圭志『MBAのための日本経営史』(有斐閣, 2007年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/02/05

第5週目の課題図書は、一橋のかつての経営学修士コースで講義されていた「日本経営史」の討議資料をまとめたという本書。タイトルとは裏腹に、ビジネススクール的な内容というよりは、しっかりと研究書的で読むのには結構時間を要しました。

ことさら「日本経営史」と銘打っていたり、そもそも一橋のコースでの講義ということもあってか、日本の(どちらかというと)古くからの企業に勤めている方々が知っておくと良いかもしれない戦前から2000年代初頭(本書は2007年刊行)までの日本の産業史と、そこにおける「大企業」と「中小企業」というプレイヤーについてさまざまな角度から扱っています。通史的な内容もあれば、仮説を立てて検証をしていくという章もあります。

具体的なケースや他国との比較、通史的な内容を扱った各章については比較的読みやすかったものの、統計的な仮説検証や少し深掘りされた金融制度史に関する章は読みでがありました。難解な部分はとりあえず各章の章末のサマリーでキャッチアップはなんとかキャッチアップはしたものの、何度か読み返さないと理解できていない気がする。

以下、まとめや考えたこと。

  • 「大企業」と「中小企業」について一冊を通じて論じているが、本書ではそこに単純なヒエラルキーを見いだすのではなく、エコシステムのようなものを想定している。すなわち、「大企業と比較して規模の経済性を追求しない分野での分業を担い、経済環境の変化に耐える強靭性を備えていた」(本書, p.270)ことで存続しえた中小企業や金融機関などの「サブシステム(中略)さらには国の政策によって維持されたひとつの『体制』」(同, p.290)によって大企業の安定的地位は支えられていたと見る。「それは『市場経済』とは別の、一国的な経済の仕組みであった」(同, p.290)とあるように、本書中でも英独などの国々との比較をしながら、大企業の安定的な状態(本書では『大企業体制』と呼称)は普遍的ではないと論じている。
  • 「大企業体制」の特質として、「第一に、日本では、同一産業中の大企業が、規模において著しく異なってはいない。同じような規模の企業がいくつも併存している」(同, p.141)、「第二に、その製品構成、技術、市場においても、日本の大企業は同一産業内において互いに類似していた」(同, p.142)という二点を挙げている。著者は終章でこうした状況は終焉を迎えていると言うが、このややもすると同質的な戦略を取ってしまいがちなことはいまだに多いのではないかという気もする。日本企業のDNAレベルにそうした性質があるとすれば、それに対しては意識的である必要がある。
  • 本書では日本企業における雇用・労使についても詳述されている。それらは日本企業の「競争優位」の考え方とも表裏一体のように思われる。日本の産業の国際競争力については1章を割いて詳述されるが、「1970年代初頭から1980年代半ばにかけて一群の産業の分野の盛衰は(中略)労働コストの優位から価値連鎖におけるコスト優位へというコストの源泉の変化を示しているにすぎない」(p.258)という看破は秀逸で、この「コストによる差別化」以上に付加価値をつけていくことは生産性の観点からも、また昨今の「働き方改革」の観点からも重要。

Written by shungoarai

2月 6th, 2017 at 1:00 am

2 Responses to '[BookReview] 鈴木良隆 他『MBAのための日本経営史』'

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  1. […] 第6週目の課題図書は、先週の課題図書に引き続いて一橋の経営学修士コースの講義をもとにした書籍で、もともと「企業家と社会」という科目での講義をまとめたもの(リンク:著者による解題)。編者が先週の図書の著者と一緒ということもあり、後半のいくつかの章(特に第10章「日本における企業の出現と社会」での日本企業の労働力の確保の仕方と、それによる労使関係に関する議論の箇所)は内容的にも重なる部分もありました。 […]

  2. […] 本書では「日本型デモクラシー」一般のみならず、日本「企業」の組織や雇用のあり方についてもさまざまに触れている。「年功序列」(p.70-1、p.180-1)を含む労使関係に関する記述は、第5週に読んだ『MBAのための日本経営史』での解説もあわせて確認しておきたい。 […]

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