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[BookReview] 頻繁かつ迅速な小さな決定による将来の大きな決定の回避:野中郁次郎『知的機動力の本質』

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▼Week28-#01:野中郁次郎『知的機動力の本質:アメリカ海兵隊の組織論的研究』(中央公論新社, 2017年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/07/11

名著『失敗の本質』の著者による新刊。『失敗の本質』は日本軍の作戦を分析した「失敗した組織」の研究であるのに対して、本書は米海兵隊という「勝つ組織」の研究。2部構成で、前半の第1部は著者による研究、後半の第2部は「機動戦(Maneuver Warfare)」へのパラダイムシフトを著した海兵隊のドクトリン『ウォーファイティング(Warfighting)』(第2版, 1997年)の翻訳。ひとまず第1部まで読了。

「組織論的研究」と副題にはあるものの、主題に掲げられた「知的機動力(Knowledge Maneuverability)」という軸に重きが置かれている本書は、「これまで進めてきた知識経営の『組織的知識創造理論』という研究成果をアメリカ海兵隊に応用した」(p.iii)もので、第1部の後半では『知的創造の経営』などに出てくる「SECIモデル」(参考)とボイド空軍大佐による「OODAループ」(参考)とを対比したり、ポランニーによる「形式知/暗黙知」やアリストテレスによる「エピステーメー/テクネー/フロネシス」(『ニコマコス倫理学』)といった知識論的考察の面が強い。

実務家として本書を読むのであれば、(1) 米海兵隊が提示した「機動戦」というパラダイムの本質と、(2) そのパラダイムに合わせていかなる組織を作るか、に着目して追うのがよい。

機動戦とは「戦場において物理的・心理的に相手を追い詰めて勝つことを目的とし、予測不能な行動をすばやく取って敵を混乱させ、その混乱に乗じて最も脆弱な点に兵力を集中して突破する『賢い戦い方』」(p.50)で、「兵器の力を最大限に活かし、敵を物理的な壊滅状態に追い込もうとする決戦主義の考え」(p.51)にもとづく「消耗戦」(Attrittion Warfare)の反対に位置づけられる。

 消耗戦機動戦
目的敵の物理的な壊滅状態敵の物理的・心理的劣位による戦意喪失
勝利のキー圧倒的な軍事力・兵站力意思決定・兵力移動・兵力集中などの迅速なプロセス
対応する組織中央集権的な官僚組織自律分散的・協働的なネットワーク型
組織の思考様式サイエンス的思考アート的思考

歴史上、陸海空の三軍と異なりたびたび「不要論」の浮上した海兵隊は、「1775年の創設以来、何度も存在価値を問われてきた組織であり、その度に自己革新組織として変わり続けて成果を出し、すなわち知的機動力を発揮し新たな存在価値を創造」(p.171)してきた。「水陸両用作戦」・「機動戦」といったパラダイムはそうした「自己革新」の産物でもある。

MEU[Marine Expeditionary Unit, 海兵遠征隊]は、通常の隊が通常任務と特殊任務の両方を遂行するので、特殊部隊ではない。陸軍のグリーン・ベレーやデルタ・フォース、海軍のシールズ、空軍のAC-130ガンシップは特殊部隊であり、高い投資で高度の専門性を育成するエリート集団であるが、MEUは海兵隊の通常の隊で構成され、通常任務と臨機応変の専門技術をもつ。(略)海兵隊では、ライフルマンが航空機、ヘリコプター、戦車などを動かしていると言ってよい。(p.65)

本書では、「海兵隊員すべてライフルマン(Every Marine a Rifleman.)」(p.71)というあり方や、「海兵隊をやめても彼は一生海兵隊員であり続ける(Once a Marine, Always a Marine.)」(p.80)といった言葉にあらわれる「共通のアイデンティティ」(p.157)に根ざした相互の信頼や連帯意識の強さに幾度となく触れられる。

こうして作られた一枚岩のチームによって可能になっているものは、(1) 各人のケイパビリティを知った上での有機的なチームワーク展開と、(2) 現場への有効な権限委譲であろう。

すべての海兵隊員は、階級や職種のいかんにかかわらず、どんな状況下にあっても、すぐさまライフルをひっつかんで闘えるのだ。(略)歩兵は他の機能と有機的に同期化した時に強力な機動戦を展開できる。海兵隊の機能は、ライフルマンを中心とするネットワークとして、地上支援、輸送・艦砲支援、役務支援、近接航空支援が有機的に配置されているのである。(p.158)

この箇所は、小規模なスタートアップですら高度に専門分業化されている場合がほとんどである企業体と比較すると違いが顕著だ。組織の「共通言語」は業務レベルのある一定スキル(あるいは集団的に共有された暗黙知。SECIモデルにおける「共同化 Socialization」)と言い替えることもできるのかもしれない。

また、機動戦において常に最前線に展開する海兵隊では、「任務戦術」(mission tactics)と称して現場への権限委譲が行われる。

任務を完遂するために必要とあれば、最前線のリーダーが通常なら大佐が下すような判断を行うことさえある。「指揮」のトップダウンと「統制」のボトムアップを両立させるのである。海兵隊にとって、「統制」はボトムアップを意味する。状況に応じて必要になる意思決定の権限、「オンデマンドの権限」を下位に与える、つまりマイクロ・マネジメントをしないことによって、フラット化ないしネットワーク化された組織構造よりも高い速さと有効性を発揮できるのである。(p.88)

こうした部分も刻々と状況が変化するような事業環境における個々人の判断に対して示唆がある。たとえばアンディ・グローブが「目標や望ましいアプローチを伝えることが権限委譲の成功のカギとなる」(『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』p.91)と言うことと、野中氏がここに続く箇所で語る内容は同じことだ。

部下に大局観を与えつつ、個別の文脈に適合させる実行方法は実行者に任せる。流動する状況では、目的を遂行する実行手段が機能しなくなっても、「目的」と「理由」を理解しておけば臨機応変にほかの手段を用いることができるからだ。指揮官は、部下にやり方を指示しない努力をするのである。そして権限を移譲したからには、部下の行為に対してみずからも責任を取る。(p.89)

総じて『失敗の本質』とは方法論がかなり異なっている印象で、ことさら海兵隊礼賛の感すら否めないものとなっているが、ベンチャー企業の組織づくりやマネジメントという部分では大いに学びもある書物。もう一箇所、以下に引用する部分は、常に頭に置いておきたいと感じた。

海兵隊では、意思決定では速さと大胆さを求められる。80パーセントの解決とは、「即断という長所を備えた不完全な決定」のことであるが、これは衝動的な意思決定や即席のずさんな計画とは異なる。「小さな決定を頻繁かつ迅速に重ねていけば、土壇場に立たされた状態で、大きな決定を下さずにすむかもしれない」と考えられており、時間が最優先され、あらゆる角度から解析することによって決定を保留することは許されない。(p.89)

Written by shungoarai

7月 12th, 2017 at 1:10 am

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[BookReview] 日本的組織ではなぜ上級幹部は愚劣な意思決定を繰り返してしまうのか:(再読) 池田信夫『「空気」の構造』

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▼Week12-#01:池田信夫『「空気」の構造 – 日本人はなぜ決められないのか』(白水社, 2013年)

感想:★★★★★
読了:2017/03/25(再読)

バタバタしてしまったので当初予定していた論文を置いて、3年ほど前に一度読んだことのあるやや読みやすめの本を再読。とはいっても、ここ最近の自分自身の問題意識からバイネームで書名が念頭に挙がっていて読み返したかった本でもあります。

本書は、サブタイトルにあるように「日本人はなぜ決められないのか」ということをテーマに、有名な「日本人論」を参照しながら日本的組織の特徴を論じた書籍。そういった意味では、本書中でも取り上げられる『失敗の本質』と同様、組織人として得るものが多い本です。冒頭で「これまでの日本人論は学問的な根拠のない印象論が多いので、本書では経済学や歴史学の成果を応用して、なるべく学問的に考えてみたい」(池田『「空気」の構造』p.11)と著者も述べているように、過去の目立った文献を縦横無尽に行き来する読み応えのある書籍です。

中村伊知哉氏はその書評(リンク)の冒頭、本書の帯に踊る「社員は優秀なのに経営者が無能!?」というコピーに触れるところから始めていますが、このコピーは中村氏の言うとおり営業用コピーであるとともに、本書の中盤、『失敗の本質』を引いた章にある次の一節に対応しているように思います。

1939年にノモンハンで関東軍と旧ソ連軍が戦って日本軍が惨敗したとき、ソ連軍指揮官のジューコフ将軍は、日本軍について「下士官兵は優秀、下級将校は普通、上級幹部は愚劣」と評し、これが日本軍についての評価の定番となった。(同, p.144)

本書は、日本的組織では「上級幹部(トップマネジメント)」がなぜ「愚劣」な意思決定を繰り返してしまうのかを論じたものといえます。論じられている枠組みを端折ると以下のようになります。

  1. 人類の規範の「最古層」には、「集団淘汰」のメカニズムが存在する。これは「個体群の中では利己的な個体が利他的な個体に勝つが、利他的な集団は利己的な集団に勝つ」(p.195)というものだ。人類の200万年の歴史の内、新石器時代に入る1万年前以前の大半は狩猟採集社会を生きていた時代であり、この時代の行動規範にあったはずの「プリミティブな平等主義」(p.210)は遺伝的な感情として残っていよう。
  2. 定住・農耕社会に至り、「最古層=プリミティブな平等主義」の上に「古層」が沈殿する。日本においては、地理的な特殊性から「気候や水に恵まれて豊かで対外的な戦争がなく、同質的な人々が一つの村で一生すごす安定したコミュニティが数千年にわたって維持された」(p.49)。ゲーム理論(囚人のジレンマ)からも明らかなように、こういった「特定の集団の中でインサイダーだけを信頼する『安心社会』…では長期的関係(彼〔=山岸俊男〕のいうコミットメント関係)のある相手だけを信頼する」(p.45)。結果として、同調圧力や排他的システム(=「空気」)が強化される。
  3. この同調圧力の強さはコミュニティ内部の紐帯を強化する一方、組織の目的意識の欠如という状況を生んでしまう。これには、上記のとおり大きな戦争に巻き込まれたことがなく「目的」を意識しなくてはならない事態の経験が少なかったことや、キリスト教的な時間意識(天地創造の日から最後の審判の日まで直線的に流れる物語のなかで、そのゴール=神の国における救済に向けた目的意識が働く)に相当するようなものがなかったためでもある。
  4. これらの結果、全員が長期的な関係に結びついたコミュニティは「多数決ではなく全員一致」(p.105)になりがちであり、リーダーシップは下位階層からボトムアップであがってきたものの「調整型」となる。そこでは目的よりも「組織内の人間関係が重視され、面子や前例主義がはびこり、組織が自己の存続のために『自転』する」(p.60)。

本書中では、この1~4を表層から古層、最古層へと掘り進める形で(つまり4~1の順で)探り当てていきます。ここで重要になってくるキーワードは「水利構造」・「逆エージェンシー問題」と、「下克上」です。

前者の「水利構造」と「逆エージェンシー問題」についての詳細は同書 p.49と p.108の明解な図を参照されたいところですが、農村における用水組合の上流・下流構造と、株主よりも従業員共同体の利益を守ることに傾きがちな日本企業の経営とに相似を見出します。

日本の農村の水利構造においては、下流の村が決定権を持ち、それらを調整する形で上流の意思決定がなされていくとされ、皇帝=上流が集中的に水利権を持っている中国型とは全く異なります。この構造は同様に「水利構造における上流:下流=企業経営における株主:社内経営者=企業内部における経営者:労働者」といった比例関係になり、本来は「株主=プリンシパル(依頼人)、経営者=エージェント(代理人)」であるはずのものが、「経営者=プリンシパル、株主=資本を提供するだけのエージェント」となってしまっていると著者は見ます。

日本の組織では … 現場で決定と実行が行われ、全体を統括する決定者がいない。形式的にはいるが、現場から上がってきた決定を追認するだけの「みこし」になっている。(略)天皇制に代表される日本型デモクラシーは、決定が現場に近いので小さな変化に柔軟に対応できる反面、現場を削減するような大きな意思決定ができない。(p.108)

この部分は上記の枠組みのうちの2~4に当たるのですが、もうひとつのキーワードとなる「下克上」の淵源を「最古層」たる「プリミティブな平等主義」に求めることで1と2とをつなぎます。

… 日本は大きな戦争を知らないまま近代化し、その「平和ボケ」の体質が今も残っている。民族が絶滅されるとか他民族の植民地にされる過酷な体験を知らないため、国全体を守るリーダーが生まれず、ローカルな「部落の平和」が最優先され、その利害調整の結果として国家の政策が決まる。西洋でも中国でも、自然発生的な「古層」の上に意識的な権力機構が構築されたのだが、日本では何となく強い大名が勝つという形で事実上の権力者が決まり、江戸時代まで全国の支配者がいなかった。(p.208)

前述の「地理的特殊性」は長期的関係が前提となったコミュニティを生むとともに、強いリーダーシップが不要な環境をも生んでしまったということでしょう。そのため階層構造が権力構造になることを「プリミティブな平等主義」観念が拒み、「下克上」という形をとります。

この「下克上」のメンタリティは、例えば「外国人と一緒に仕事をして感じるのは、彼らは『命令されないと動かない』のに対して、日本人は『命令されるのをいやがる』」(p.178)という形で遍在します。このあたりは、與那覇潤氏の『中国化する日本』でも語られていたように思います。

以下、考えたことや、あとで考え直すためのメモ。

  • 企業経営の実際の中で、「ボトムアップ」や「全員一致」という形式を重視する傾向はしばしば見られる。また、それは裏返すと「誰も決めないシステムでは、全員が自分で決めたような参加感をもつのでモチベーションが高まる」(p.157、強調部引用者)ということでもあり、残念なことにモチベーションと目的意識や責任意識とがトレードオフということになってしまっている。歴史的・風土的な宿命論とせずに、これを超克する方法なり仕組みを考えなくてはならない。
  • 企業における「経営/現場」間の意思決定の逆転のケースは見知っていたことでもあるが、上記の「逆エージェンシー問題」にあるように「株主/経営」間でも意思決定の逆転が起きていることについても、無意識であったが思い当たる部分も多い。
  • 本書では「日本型デモクラシー」一般のみならず、日本「企業」の組織や雇用のあり方についてもさまざまに触れている。「年功序列」(p.70-1、p.180-1)を含む労使関係に関する記述は、第5週に読んだ『MBAのための日本経営史』での解説もあわせて確認しておきたい。
  • 「日本的経営」の評価については、下記の箇所は非常にフェアだと感じた。
    • … 「日本的経営はなぜこんなにすぐれているのか」という問いは間違いで、「日本企業はなぜ自動車や家電に強いのか」と問うのが正しい。日本企業が強いのは「2.5次産業」と呼ばれる知識集約的な製造業だけだが、それがたまたま70~80年代に花形産業になり、また自動車やテレビなどの規格が標準化されていて世界市場が成立したために、「日本の奇蹟」と見えたのだ。(p.165)
  • 他の書物でもしばしばそう評されているように、本書でも東條英機は「小心で凡庸なサラリーマン」(p.153)と評される。彼のパーソナリティ然り、昇進をしていくプロセスもまさにそうなのであるが、つまるところ「東條英機的」マネージメントは、単に個人の資質や戦時報道ばかりならず日本的組織が生み出した帰結でもあり、こうした「調整型」人物がプロモーションしやすい環境がある以上は同様のマネージメントが再生産されうるということに、日本企業(組織)は意識的になる必要があろう。
    • 東條のもう一つの特徴は、手続き論への異常なこだわりだった。他人を論理で説得することが苦手な分、形式的な法律論で相手をねじ伏せようとする。皇道派を追放した陸軍では下克上への警戒が強まり、上の命令を忠実に守って反抗しない東條のような軍人が模範とされたのだ。こうして人望も能力もない東條が「消去法」で、するすると陸相になった。彼は石原〔莞爾〕とは違って調整型で敵が少なく、周りが警戒心を抱かなかったことも幸いした。(p.154)
  • この「空気」なるものを探り合う営為の結果のひとつが、ここ最近話題になっている「忖度」であろう。外国人記者クラブの会見で通訳がこの語の翻訳に難渋したのも、実に日本的な精神構造に根ざしたものであるゆえだ。前述のように「誰も決めないシステム」内での事象であるため、例の事案も真偽は実際どうであったかは別として、「忖度」がなかったということを立証することは「悪魔の証明」だ。

Written by shungoarai

3月 26th, 2017 at 1:00 am

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[BookReview] 新藤晴臣『アントレプレナーの戦略論』

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▼Week11-#01:新藤晴臣『アントレプレナーの戦略論 – 事業コンセプトの想像と展開』(中央経済社, 2015年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/03/17

2冊続いたファイナンス関連を離れてアントレプレナーシップに関する書籍に戻りました。大阪市立大学大学院(アントレプレナーシップ研究分野)准教授による『アントレプレナーの戦略論』は、大企業に関する研究をもとに発展した経営戦略論の新興企業への適用をテーマとして書かれた本。

アントレプレナーが〔大企業の研究に基づいて開発され、実践への適用事例としても大企業のものが多い〕経営戦略論を実践に適用しようとした場合、かなりの労力と(自己流に近い)解釈が必要」(新藤『アントレプレナーの戦略論』ii)という課題意識から書かれているので、巷間に広まっている有名なフレームワーク(3C、4P、PPM、SWOT、5フォースなど)をどのように使いこなすかを平易に書いたものでもあり、これらのフレームワークについてある程度知識がある人であれば読み飛ばしてスピーディに読めると思います。

それらの環境分析や経営戦略のフレームワークを用いたうえで、本書では、D.F. エーベル(『事業の定義』)の議論などに基づく「事業コンセプト」にまとめ、組織内外のプレイヤーと事業定義に関する認識合わせ(ドメイン・コンセンサス)がされることが重要だと説かれます。「事業コンセプト」は「自社は何屋さんであるか」であり、①顧客=Who、②顧客機能=What、③代替技術=Howの軸で整理されるとしています。

以下メモ。

  • 本書の企図に反して、第3章以降の「実践適用」に関するパートよりも、これまで経済学・経営学でいかにアントレプレナー(あるいはアントレプレナーシップ)が扱われてきたかを概観した第1〜2章がよくまとまっていて参考図書リストとしてよいと思った。
  • ことイノベーションに関してよく引き合いに出されるJ. シュンペーターに加えて、I. カーズナーを持ってきて比較している箇所は面白かった。「アントレプレナーの本質的な役割について、シュンペーターは『不均衡をつくり出す勢力』ととらえ、革新によって変化を引き起こすとしている。一方カーズナーは、『均衡をつくり出す勢力』ととらえ、変化の発生を認識し、それに反応する存在と説明している」(同書, p.8)。この枠組みは、他の研究者の成果を引用しながら後半でも現れる。新興企業の成長ステージを3つに分けたとき、「〔不連続な変革が行われる〕①スタートアップ期と③安定期には『シュンペーター型』のアントレプレナーシップが、〔漸進的な変革が行われる〕②成長期には『カーズナー型』のアントレプレナーシップが、それぞれ出現すると論じられている」(同書, p.193)。これは、新興企業のめまぐるしく変わる事業フェーズもしくは経営フェーズによって、どのようなマネジメントが必要とされるかという議論とも対応している。
  • 各章の章末には、それぞれの章で述べられたフレームワークの実践適用事例として著者の関わったケースの紹介がある。興味深いものもあるが全体的には物足りない印象(外部環境のリスク認識や、自社の強みに関する自己認識の面での甘さや、プライシング決定に関する唐突感など)。逆に考えると、事業に直接携わる人物が事業計画を作ると、このように死角が生まれがちだということを教えてくれ意味で、とても参考になるかもしれない。3Cに関する説明箇所で書かれるように、「アントレプレナーシップを実行する経営戦略では、前述の3つのプレーヤーのうち、自社(Company)が最も重要な要素となる。アントレプレナーシップを実行する新興企業では、自社を規定するところから経営戦略がはじまるからである」(同書, p.103)という点については同感だが、自社(Company)の能力や事業機会は外部とのきわめて相対的な関係から決まるものだ。
  • アントレプレナーシップについて論じる際、どの程度の規模の事業に育てることをそもそものゴールとしているかという視点を欠くと、理論的にも実践的にも的外れになってしまう懸念があることは注意したい。しかし同時にこれは、「アントレプレナー」や「スタートアップ」をいかに定義するかということでもあり、なかなかに微妙な問題を孕んでいる(例えば、クラウドファンディングで集めた資金で「海の家」を作ろうとする事業は「スタートアップ」と呼んで適切か、など。おそらくは、何らかの「技術的な解決」をともなった事業でなければ、経済学的な意味合いでの「アントレプレナー」とは呼びにくいのだと思う)。

▼アントレプレナーシップに関する読書リスト

No.読了日評価書名著者名
12017/01/10★★★★☆『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』P.F.ドラッカー
22017/02/11★★★★☆『ソーシャル・エンタープライズ論』鈴木良隆 (編)
32017/03/04★★★☆☆『アントレプレナーシップ入門』忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎
42017/03/17★★★☆☆『アントレプレナーの戦略論』新藤晴臣

Written by shungoarai

3月 18th, 2017 at 11:40 am

[BookReview] 宮増浩『管理会計 実践入門』、石野雄一『道具としてのファイナンス』

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▼Week10-#01:宮増浩『管理会計 実践入門』(日本実業出版社, 2012年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/03/09

▼Week10-#02:石野雄一『道具としてのファイナンス』(日本実業出版社, 2005年)

感想:★★★★☆
読了:2017/03/13

2017年第10週は、ファイナンス関連で2冊の入門書を読みました。実務ではファイナンスもアカウンティングも司ってはいるものの、すべて必要に迫られて実務で覚えてきたものであるので、基礎から体系だって学んだことはなく、かといってブリーリー&マイヤーズによる有名すぎる教科書『コーポレート・ファイナンス』にいきなり手を付けるのも日和ってしまい、まずは簡単な書物で概要を押さえてから、と考えました。この2冊はともに日本実業出版社の書籍ですが、同社のファイナンス関連の書籍のラインナップには、数年前に読んだ磯崎哲也さんの『起業のファイナンス』もあったりして、それもあって信頼が置ける気がしました。

1冊目の宮増浩『管理会計 実践入門』は、会計実務に関する本というよりは、企業のCFOやCFOオフィスのスタッフがどのように事業の数字(書中の言葉では「非財務情報」)を扱っていくかに重点が置かれている印象です。

ゆえに、(特に)大企業での中計の策定に関わったり、そこで決めた数字をどうやって現実的な施策へと落とし込んでいくかということに悩んだりしたことのある多くの経営企画・経理部門スタッフには馴染みのあるテーマだと思います。「短期実施計画の最大の特徴は、経営管理プロセスのなかで、もっとも大きな財務・非財務情報間の非整合が生じ、それを整合させるために大きな資源をつぎ込まなければならないことです」(宮増『管理会計 実践入門』pp. 88-9)といった記述は、実施計画を作るために連日夜中から会議をして…という経験を持つ方にはとても納得できる部分かと思います。

この書籍の優れたところは会計実務に寄りかかっていないところで、むしろ経営管理を行う立場の者がいかに事業サイドの数字を理解し、そこに想像力を働かせるかという意識で書かれている点だという印象です。

2冊目の石野雄一『道具としてのファイナンス』は、米国のビジネススクールでファイナンスを学んだ銀行出身の財務戦略コンサルタントによるファイナンスの入門書。私自身の関心がコーポレート・ファイナンスにあったので本書の前の方の「証券投資に関する理論」(第2章)はそっくりそのまま読み飛ばしてしまいましたが、後段の「デリバティブの理論と実践的知識」(第6章)などもワラントや転換社債による資金調達などに触れられていて、要は投資の理論(供給サイドの理論)は需要サイドの理論の裏返しでもあるとするなら、読み飛ばすべきではなかったのかもしれません。

一読しただけではもちろん半分も理解していないとは思うものの、どういったところを考えるべきかという地図を示してくれるような本です。ザッと巻末まで目を通した上で、この本でせっかくExcelを用いた複雑な計算について解説されたばかりだから、何かしら練習問題を解くことで定着させたいなどと思っていると、やはり同じことを考えるもののようで、「問題集」が出ているようです。

Written by shungoarai

3月 14th, 2017 at 12:20 am

[BookReview] 忽那憲治 他『アントレプレナーシップ入門』

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▼Week09-#02:忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎『アントレプレナーシップ入門 – ベンチャーの創造を学ぶ』(有斐閣, 2013年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/03/04

今週の課題図書を早めに読み終えたので、第9週の2冊目として、手短に読めそうな1冊を前倒しで読みました。第2週に読んだ『イノベーションと企業家精神』や第6週の『ソーシャル・エンタプライズ論』以来のアントレプレーナーシップ関連のテーマの本。

本書は、冒頭の「はしがき」にも書かれているように、高校を卒業したての学部学生に向けたアントレプレナーシップの教科書。とはいえ、「新奇性が高いものを創造しようと思えば、単に専門力を深めるだけでは不十分で、専門力と同時に総合力が問われる。アントレプレナーシップとはまさにそうした性格を持った学問である」(忽那 他『アントレプレナーシップ入門』, i)とあるように、ややもすると専門化してしまいがちな職業人にとっても開眼させられる内容です。ここで言われる「総合力」たるものを育てることこそが教養教育(リベラルアーツ)であって、そういう意味で、この本が高校を卒業したての学生をターゲットとしているのは非常に納得がいきます。

本書の構成は、起業を思いつくアントレプレナーがいかなることをしなくてはならないかを、事業機会を見つける段階からビジネスモデルを構築して、チームを作り、資金調達をして… という順を追って概説します。「日本のスタートアップ企業では、事業機会の評価をすること、あるいは事業機会が存在するかについて検証することさえ行わない例が多く見られる」(同書, p.39)や、「自分の発案したアイデアがどのようにすばらしいかをアピールするあまりに、自らのアイデアに固執しすぎてしまうアントレプレナーが多い」(同書, p.53)という記述には心当たりがとてもあります。教養教育課程の学生に限らず、起業を志向する方がプロセスを学び、かつ、いかなる陥穽があるかを把握するためにもよい書物です。ベンチャー企業で経営企画部門を担う身としては、目新しいといった内容はないものの、よくまとまっているので頭が整理されました。以下、その他メモ。

  • その他、潜在顧客を考えるための「共感図(empathy map)」法や、ブレインストーミングの際に発想を発散させるための「オズボーンの9つのチェックリスト」など使いやすそうな思考のフレームワークが折に触れて紹介されているのも簡潔で実用的。
  • クリステンセン 他『イノベーションのDNA』から紹介をされている箇所であるが、「イノベータDNA」モデルは非常にわかりやすい。「彼らの研究によれば、破壊的イノベータは、一見、無関係に見える問題やアイデアを結びつけて、新しい方向性を見出すことができるという認知的スキルである『関連づけ思考』を働かせている。また、この関連づけ思考を誘発するために、質問力、観察力、ネットワーク力、実験力という4つの行動的スキルをフルに活用している」(同書, pp.14-5)
  • 読書リストが各章末にまとまっているのも○。

▼アントレプレナーシップに関する読書リスト

No.読了日評価書名著者名
12017/01/10★★★★☆『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』P.F.ドラッカー
22017/02/11★★★★☆『ソーシャル・エンタープライズ論』鈴木良隆 (編)
32017/03/04★★★☆☆『アントレプレナーシップ入門』忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎
42017/03/17★★★☆☆『アントレプレナーの戦略論』新藤晴臣

Written by shungoarai

3月 5th, 2017 at 9:30 am

[BookReview] スタウス 他『サービス・サイエンスの展開』

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▼Week08-#01:ベルンド・スタウス 他編『サービス・サイエンスの展開 – その基礎、課題から将来展望まで』(生産性出版)

感想:★★★☆☆
読了:2017/03/03

第9週の課題図書は、先々週先週の課題図書に引き続きサービス産業に関するテーマの書物。ゼロ年代前半にサービス・イノベーションを体系化することが叫ばれ、IBMがSSME(Service Science, Management, Engineering)というサービス・イノベーションへのパースペクティブを主唱するなか、2006年4月に開催されたドイツ初のサービス・サイエンスに関する国際会議での発表をまとめたものが本書。

学会発表ということもあってかきちんとまとまった論文というよりは論点提示に留まって議論が端折られていたり、あるいは生煮えの部分なども多いと感じましたが、そういった点も含め、新たな学問分野の立ち上がりに際して研究者が試行錯誤しているような息吹が伝わってくるような一冊です。

序章における最も簡潔な定義によれば「サービス・サイエンスは新しい科学的な概念として定義され、その目的は学会とサービス企業との集中的な協力関係のなかで、学際的なアプローチを適用することによって、サービス経済の複雑な諸問題の解決を目指すものである」(スタウス 他『サービス・サイエンスの展開』p.5)。また、別の箇所では「サービス・サイエンティストが行うべきことは、サービス・システムを研究し、サービス・システムを改善し、そして、サービス・システムを拡大することである」(ジム・スボラー「サービス・サイエンス、マネジメント、エンジニアリング(SSME)と他の学問領域との関連」同書, p.49)とし、「サービス・サイエンス」に「人々やテクノロジー、他の内部および外部サービス・システム、および(言語や法のような)共有情報からなる価値の共同生産構造」(同, p.47)という定義を与えています。

こういった考え方に基づいて、従来の学問との距離感覚(重複や差異)や企業と学問の府とがいかに協働しうるかといった点をさまざまな角度から語られています。

以下、メモ。

  • 先週・先々週に読んだサービスに関する概説書のなかでさまざまに触れられていた「サービスと物財との差異」については一通りの認識を持ちながら読み進めていったなかで、以下のような記述にぶつかって、学究的な姿勢の厳密さにハッとする。「行為者と参加者を巻き込むこのプロセスを取り上げることは、サービス・サイエンスにとって、明確で関連性のある焦点をもつことになる。加えて、革新的で複雑な問題を取り扱うには学際的な分析を必要とするであろう。したがって、この見方は将来性のある選択となる。ただ、この見方は経済的な変化を取り上げているのであって、サービスそのものを対象としているのではないことを忘れてはならない」(ベルンド・スタウス「サービス研究の国際的現状、発展、およびサービス・サイエンスが登場した意義」同書, p.91)
  • サービス産業の経済に占めるポーションが大きくなり、なおかつ従来型の製造業の企業内においても事業におけるサービス領域が大きくなっているという現状から、サービスにおけるイノベーションを体系的に創出することに対する切迫感が全体を通じてある。国単位での産業振興ということを考える時、産学や産学官での協働が重要であるが、一方、これらの協働を奏功させるためには各プレイヤーがそれぞれそこに価値を感じ、メリットを享受できるような長期的なパートナーシップが必要である。本書では、新たな学問領域の扱う範囲やその背景となる問題認識のみならず、いかに成果のある研究を行いうるかという方法論についても議論されている。
  • S-Dロジック(サービス・ドミナントロジック)についてはちゃんと勉強しておきたいと思った。

Written by shungoarai

3月 4th, 2017 at 10:45 am

[BookReview] ラブロック&ライト『サービス・マーケティング原理』

2 comments

▼Week07-#01:C.ラブロック, L. ライト『サービス・マーケティング原理』(白桃書房)

感想:★★★★★
読了:2017/02/22

第7週目の課題図書は、400ページ近い大著だったので先週1週間では読みきれず少し期限をオーバー気味で読了したこちらの書籍。米 ハーバード・ビジネススクールやスイス IMD(国際経営開発研究所)などで教鞭をとってきたサービス・マーケティング分野に関する先駆者であるC. ラブロック博士による概説書。ふだん「サービス」を扱う企業のマネジメントに関わっている身からすると、どこに書かれた内容もそのひとつひとつが身に覚えのあるようなことで、ゆえに決して目新しいことがあるわけではない部分も多いのですが、「サービス」に関する多岐にわたったチェックポイントを網羅的に書いた本で、同じような立場にある方や、サービスを設計・企画するような方には必読書のように思います。

まず本書は、「サービス・マーケティング」とは何たるやというところから書き始められています。従来のマーケティング理論やビジネス理論は製造業の研究に基づいて発展してきたものであり、今日先進国・新興国を問わず経済における重要度が増しているサービス・セクター(いわゆる「サービス産業」の他にも、公共機関や非営利組織によって提供されるサービス財も含む)においてはそのまま適用されえないとして、「物財のマーケティング」とは異なる「サービスのマーケティング」の枠組みが必要であるとします。確かに、私自身も物事を考えたり整理する際に、従来のフレームワークや(そのもとになっている)「工場での生産/消費者へ向けた流通」といった比喩を用いたりするものの、うまく適用しにくいと感じることもあるので納得。

本書がテーマとする「サービスのマーケティング」は、狭義の「マーケティング」に留まりません。邦題は『サービス・マーケティング原理』となっていますが、原書のタイトルは “Principles of Service Marketing and Management” であることに意図が表れています。

本書はサービス・マーケティングだけに終始するものではない。各章を通して、他の2つの重要な職能――サービスのオペレーションと人的資源管理――についても言及がある。(略)マーケティング、オペレーション、人的資源管理における諸活動の統合が目標であって、この3つの分野のどこかで不都合があれば、結局は十分な収益が確保できない事態を招くことになるのである。(同書, pp.22-3)

物財とサービスとの差異のひとつとして「サービスにおいては顧客は生産プロセスに深く関与する」(たとえば、コインランドリーや銀行ATMの利用はユーザーの行動がなければ完結しないし、大学の授業や病院で診察をうけるときなどのように、サービスを提供する組織で働く従業員と協働の必要があったりする)という点が挙げられているように、通読するとわかるのは、「サービス」とはサービス単体で存立するものではなく、それを提供するプロセスやデリバリーの方法などすべてをひっくるめたものであって、よって、自ずと従業員や顧客のマネジメントも切り離して議論できないものであるということです。

さて、本書では議論を深め、あるいは具体化していく前に3つの有用な枠組みを提示します。

  • 統合的サービス・マネジメントの「8Ps」モデル:物材に対するマーケティングにおける4Pに代わるモデル(ただし、MECEではない)。
    1. プロダクト要素(product elements)
    2. 場所と時間(place and time)
    3. プロセス(process)
    4. 生産性とクォリティ(productivity and quality)
    5. 人的要素(people)
    6. プロモーションとエデュケーション(promotion and education)
    7. フィジカル・エビデンス(physical evidence)
    8. サービスの価格とその他のコスト(proce and other costs of service)
  • プロセスによるサービスの分類:プロセスの「対象」が人かモノか、有形の行為か無形の行為かの2軸によって4つのカテゴリーにサービスを大別する。(各カテゴリーに含まれるサービスもさまざまではあるが、カテゴリー内では類似の施策等も有効ではないかと示唆される)
    1. 人を対象とするサービス(人×有形):旅客輸送、ヘルスケア、宿泊 etc.
    2. 所有物を対象とするサービス(モノ×有形):貨物輸送、修理・保全、倉庫・保管 etc.
    3. メンタルな刺激を与えるサービス(人×無形):広告・PR、芸術・娯楽、放送、教育 etc.
    4. 情報を対象とするサービス(モノ×無形):会計、銀行、データ処理、保険 etc.
  • サービス組織と顧客コンタクトのレベルによるサービスの分類:
    • ハイ・コンタクト:サービス従業員とのエンカウンターが重視される
    • ロー・コンタクト:施設・設備とのエンカウンターが重視される

これらが第1部(第1〜4章)でまとめられた後、第2部では8Psモデルのうちオペレーショナルな性質が強い点を、第3部では狭義の「マーケティング」的な性格の強い点に触れて概説、最後の第5部ではより具体的な実務レベルのオペレーションを具体化し、前述の「マーケティング、オペレーション、人的資源管理」の3つの統合を図っています。第2部以降の本書の構成は以下のとおり。

内容
2:サービスによる価値の創造5. 生産性とクオリティサービスのクォリティについて顧客の期待や顧客満足との関係から整理し、またクォリティはサービス組織の生産性と不可分のものであることを見る

※キーワード:希望サービスと下限サービス、クォリティ・ギャップ、5つのクォリティの次元(信頼性、有形要素、反応性、確実性、共感性)、SERVQUAL尺度
6. リレーションシップ・マネジメントと顧客ロイヤルティの構築ターゲット・セグメンテーションを行い、顧客リレーションのすべてを保持したりせず、価値あるリレーションシップを形成・維持する

※キーワード:ジェイカスタマー、ロイヤルティ
7. 苦情への対処とサービス・リカバリー顧客が苦情を言う背景を理解し、どう向き合うかを示す

※キーワード:「真実の瞬間」、サービス・リカバリー
3:サービス・マーケティング戦略8. サービスのポジショニングとデザインサービス戦略とポジショニングの明確化(4Pにおける「製品」に相当)

※キーワード:ブランド
9. 補足的サービス要素による価値の付加成熟産業における競争優位は、コア・プロダクトに付加された補足的サービス要素のパフォーマンスを向上させることで追求される

※キーワード:フラワー・オブ・サービス
10. サービス・デリバリー・システムのデザインサービス・デリバリーの「いつ」「どこで」「どのように」についての広がりを見る

※キーワード:サービススケープ
11. サービスの価格とコスト何に対して支払っているか明確な物財との比較から、無形のサービス・パフォーマンスの料金について考える

※キーワード:サービスの非金銭的コスト、純価値
12. 顧客エデュケーションとサービスのプロモーションプロモーション活動における情報提供は顧客エデュケーションにも有用
4:マーケティングとオペレーション、人的資源管理の統合13. サービス・マーケターのための諸ツールサービス・デリバリーのフローチャートを見ながら、サービスプロセスを理解する

※キーワード:劇場のアナロジー、OTSUとISSO、
14. 需要と供給能力のマネジメント物財とサービスとの差異に「在庫がない」点があげられる。供給能力と需要を理解し、需要のマネジメントを行なう
15. 行列と予約のマネジメント需要が供給能力を超過する場合の需要保持の施策として行列や予約の活用を謳う

※キーワード:イールド・マネジメント
16. サービス従業員:リクルートからリテンションまでサービス組織では人的資源に投資する必要があり、採用・訓練・モチベーション・リテンションが重要であることを説く

※キーワード:エンパワーメント、イネーブルメント、失敗サイクル、劣悪サイクル、成功サイクル
(表:ラブロック 他『サービス・マネジメント原理』第2部以降の構成)

 

以下、気づいたり考えたこと。

  • 上述したように、本書に書かれている内容は「サービス」に提供している組織にいる者にとってはいずれも馴染み深く、課題の整理によい。一方で、「サービス」というもののなかで人的要素がいかに重要な位置を占めているかには気づかされた。
  • ゆえに、特にサービス組織の人的マネジメントについて扱った第16章は興味深い。こと「ハイ・コンタクト・サービス」においては従業員は「フィジカル・エビデンス」(無形のサービスにとって、サービスのクォリティを感知可能なものとするための代替物。視覚的な手がかり)であるということや、それゆえにどのような訓練を施すか、またそもそもどのような人物を採用するべきかなど、そのまま事業運営のヒントとなるような内容が書かれていて有用。
  • 本書を読みながら、自分自身も「サービス・エクスペリエンス」を気にしながら日常生活でサービスを利用していた。そうすることで、本書の説く「サービス・マーケティング」や「サービス・マネジメント」を提供者側・顧客側の両面から立体的に理解ができたように思う。たとえば、Rettyに書いたラーメン屋に関するこのレビューなどはその試み。ここではオペレーション(サービス・デリバリーや、行列のマネジメント)や、サービス組織の従業員の訓練やモラール、顧客同士のポジティブフィードバック(「プロダクトの一部としての他の人々の存在」, p.19)、それらの結果としての顧客ロイヤルティ… などのテーマを含めたつもりだ。

Written by shungoarai

2月 23rd, 2017 at 1:00 am

[BookReview] 鈴木良隆 他『ソーシャル・エンタプライズ論』

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▼Week06-#01:鈴木良隆(編)『ソーシャル・エンタプライズ論』(有斐閣, 2014年)

感想:★★★★☆
読了:2017/02/11

第6週目の課題図書は、先週の課題図書に引き続いて一橋の経営学修士コースの講義をもとにした書籍で、もともと「企業家と社会」という科目での講義をまとめたもの(リンク:著者による解題)。編者が先週の図書の著者と一緒ということもあり、後半のいくつかの章(特に第10章「日本における企業の出現と社会」での日本企業の労働力の確保の仕方と、それによる労使関係に関する議論の箇所)は内容的にも重なる部分もありました。

上記のリンク先で著者が自ら書いているように、もととなった科目「企業家と社会」が講義されているときに発生した東日本大震災後のことが本書の内容にかなり色濃く反映されています。震災の復興の火急性によって日本においてもソーシャルエンタープライズ(社会起業)への眼差しが変わったと見ているであろう本書では、グラミン銀行(Wikipedia)や『Big Issue』(Wikipedia)といった世界的に見たソーシャル・エンタープライズ一般の話も取り上げつつ、日本におけるソーシャル・エンタープライズというテーマでうまくまとめた本だと思いました。

以下、メモ。

  • 欧米各国でソーシャル・エンタープライズが発生してきた経緯と、その議論をそのまま適用しにくい日本の状況とを、本書を通読することで整理できる。第6章「ソーシャル・エンタプライズのフロンティア」では、米国では1960年代後半以降の公民権運動・反戦運動・消費者運動・環境運動などによって企業に社会的責任が求められたことや、1980年代以降のレーガン政権下でNPOセクターへの予算が削減されたこと、また英国では1990年代後半の労働党政権によってソーシャル・エンタープライズが政策に組み込まれてきたことが背景として説明される。また、第9章「ソーシャル・アントレプルナーの源流」ではさらに遡って、ロバート・オウエン(Wikipedia)やサン=シモン主義(Wikipedia)といったところにまで源流を探っている。一方、「欧州各国における協同組合の発展や、雇用の主体としてのソーシャル・エンタープライズを位置づける議論の前提条件を、日本社会は必ずしも共有していなかった」(本書, p.30)。
  • いくつかの事例を挙げながら、本書では日本でのソーシャル・アントレプレナーシップの萌芽を好意的に見つつも、そのハードルもまたいろいろと挙げられている。人材もしかり、起業環境もしかりである。
    • 日本型雇用習慣のなかで、労働人口の大半を企業社会が独占していたことが、専門的な人材や労働力のパブリック・セクターへの流入を阻害した。畢竟、担い手は(企業社会からの安定した家計に支えられた)主婦と、現役を退いた高齢者中心にならざるをえなかった。(同, p.31)

    • 社会的包摂と雇用の担い手として、パブリック・セクターとソーシャル・エンタプライズを活用し、創業を積極的に促進してきた欧州や韓国とは異なり、ソーシャル・エンタープライズのみならず起業全般が低迷しているのが日本の現状である。(同, p.37)

    • 日本のソーシャル・エンタプライズは確実に多様性を増し、新規の創業も相次いでいる。だが、そもそも営利企業の起業も容易でない日本社会のなかで、社会領域を対象とした新しい主体が着実に成長軌道に乗ることができるかは未知数と言わざるをえない。(同, p.61)

  • 本書が特徴的であるのは、「ソーシャル・エンタープライズ」論でありつつも、それを通じて「企業」論となっている点だ。それはもともとが「企業家と社会」という講義として企図されたものだからであろう。序章と終章ではシュムペーターを引用しながら、「企業〔エンタープライズ〕とは『新結合』〔イノベーション〕を遂行することであり、あるいはそれを遂行する組織体のことである」(同, p.12)と強調される。ゆえに、ソーシャル・エンタープライズとは「従来の課題を、その解決の仕方を変えること」(同, p.260)であり、それは極めて技術経営的なテーマであると言える。

▼アントレプレナーシップに関する読書リスト

No.読了日評価書名著者名
12017/01/10★★★★☆『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』P.F.ドラッカー
22017/02/11★★★★☆『ソーシャル・エンタープライズ論』鈴木良隆 (編)
32017/03/04★★★☆☆『アントレプレナーシップ入門』忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎
42017/03/17★★★☆☆『アントレプレナーの戦略論』新藤晴臣

Written by shungoarai

2月 12th, 2017 at 10:00 am

[BookReview] 鈴木良隆 他『MBAのための日本経営史』

2 comments

▼Week05-#01:鈴木良隆・橋野知子・白鳥圭志『MBAのための日本経営史』(有斐閣, 2007年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/02/05

第5週目の課題図書は、一橋のかつての経営学修士コースで講義されていた「日本経営史」の討議資料をまとめたという本書。タイトルとは裏腹に、ビジネススクール的な内容というよりは、しっかりと研究書的で読むのには結構時間を要しました。

ことさら「日本経営史」と銘打っていたり、そもそも一橋のコースでの講義ということもあってか、日本の(どちらかというと)古くからの企業に勤めている方々が知っておくと良いかもしれない戦前から2000年代初頭(本書は2007年刊行)までの日本の産業史と、そこにおける「大企業」と「中小企業」というプレイヤーについてさまざまな角度から扱っています。通史的な内容もあれば、仮説を立てて検証をしていくという章もあります。

具体的なケースや他国との比較、通史的な内容を扱った各章については比較的読みやすかったものの、統計的な仮説検証や少し深掘りされた金融制度史に関する章は読みでがありました。難解な部分はとりあえず各章の章末のサマリーでキャッチアップはなんとかキャッチアップはしたものの、何度か読み返さないと理解できていない気がする。

以下、まとめや考えたこと。

  • 「大企業」と「中小企業」について一冊を通じて論じているが、本書ではそこに単純なヒエラルキーを見いだすのではなく、エコシステムのようなものを想定している。すなわち、「大企業と比較して規模の経済性を追求しない分野での分業を担い、経済環境の変化に耐える強靭性を備えていた」(本書, p.270)ことで存続しえた中小企業や金融機関などの「サブシステム(中略)さらには国の政策によって維持されたひとつの『体制』」(同, p.290)によって大企業の安定的地位は支えられていたと見る。「それは『市場経済』とは別の、一国的な経済の仕組みであった」(同, p.290)とあるように、本書中でも英独などの国々との比較をしながら、大企業の安定的な状態(本書では『大企業体制』と呼称)は普遍的ではないと論じている。
  • 「大企業体制」の特質として、「第一に、日本では、同一産業中の大企業が、規模において著しく異なってはいない。同じような規模の企業がいくつも併存している」(同, p.141)、「第二に、その製品構成、技術、市場においても、日本の大企業は同一産業内において互いに類似していた」(同, p.142)という二点を挙げている。著者は終章でこうした状況は終焉を迎えていると言うが、このややもすると同質的な戦略を取ってしまいがちなことはいまだに多いのではないかという気もする。日本企業のDNAレベルにそうした性質があるとすれば、それに対しては意識的である必要がある。
  • 本書では日本企業における雇用・労使についても詳述されている。それらは日本企業の「競争優位」の考え方とも表裏一体のように思われる。日本の産業の国際競争力については1章を割いて詳述されるが、「1970年代初頭から1980年代半ばにかけて一群の産業の分野の盛衰は(中略)労働コストの優位から価値連鎖におけるコスト優位へというコストの源泉の変化を示しているにすぎない」(p.258)という看破は秀逸で、この「コストによる差別化」以上に付加価値をつけていくことは生産性の観点からも、また昨今の「働き方改革」の観点からも重要。

Written by shungoarai

2月 6th, 2017 at 1:00 am

[BookReview] チェスブロウ『OPEN INNOVATION』

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▼Week04-#01:H. チェスブロウ『OPEN INNOVATION』(産業能率大学出版部)

感想:★★★★☆
読了:2017/01/26

第4週目の課題図書は、先週に引き続きハーバード・ビジネス・スクールのチェスブロウ教授の著書『OPEN INNOVATION(原題 “OPEN INNOVATION: The New Imperative for Creating and Profiting from Technology”)』。クリステンセン教授の『イノベーションのジレンマ』と並んで「新たな古典」としての地位・定評のある書物で、またとても平易に書かれた入門的な書でもあります。

本書は、大企業の企業内研究所主導による従来型の「クローズド・イノベーション」と呼ぶべきアプローチは現代に合ったものではないため、一社内で完結しない新たなアプローチ(=オープン・イノベーション)を指し示す一方、このアプローチは決して技術開発という閉じたコミュニティのみで議論されるべきではなく、「ビジネスモデル」と合わせて検討すべきだと示しています。

Xeroxの独占から脱出し、Ethernetを商品化したRobert Metcalfeによれば、これまでのイノベーションに対するアプローチは、大企業に独占を許すかわりに、大企業に基礎研究をしてもらうというものであった。
これは過去には正しかったかもしれないが、知識が普及した社会において、企業内に知識を閉じ込めて、その企業のビジネスに必要なときのみに使用するといった方法はもはや通じない。(チェスブロウ『OPEN INNOVATION』pp.202-3)

本書は以下のように構成されています。

構成内容
導入序章第2〜3章で詳述されるクローズド・イノベーションからオープン・イノベーションへの「イノベーションのパラダイム・シフト」を先取って説明。
問題提起第1章Xerox社の社内研究所「PARC(Palo Alto Research Center)」は、今日のPCやコミュニケーションを支える技術開発に大きく貢献し、またAdobeなど、スピンアウトして成功したベンチャー企業も輩出したが、Xerox社への利益には寄与しなかった。問題の所在を「イノベーションのマネジメント」に見る。

※キーワード:チェスとポーカー、テクノロジーとマーケットの双方の不確実性のマネジメント
歴史的背景第2章大企業の社内研究所によるイノベーション・プロセスである「クローズド・イノベーション」の成立背景を米国史の文脈から整理した後、社会やベンチャー企業を取り巻く環境の変容によって「研究」と「開発」との間のギャップが広がった結果、このアプローチが時代遅れとなっていったさまを説明する。

※キーワード:中央集権的・垂直統合的、規模の経済・範囲の経済
歴史的展望第3章前章の内容を受け、「アイデアは社外に豊富にあり、優秀な労働者も中途でいくらでも採用できる状況」下では新たなイノベーション手法が必要だと論じる。一方、「オープン・イノベーション」は社内の研究部門を不要とするということを意味するのではなく、その役割を変容させるという。

※キーワード:知識結合
別の視座の持ち込み第4章テクノロジーは、それ自体では価値を生まない。新しいテクノロジーを新しいマーケットに結びつけるにはビジネスモデルを必要とし、その追求こそが企業のマネージャーの仕事だと論じる。

※キーワード:支配的ロジック、テクノロジーに適合した正しいビジネスモデル
各社事例第5章IBMの事例。
1) オープンなテクノロジーによる顧客のビジネスのサポート
2) 知的財産権のライセンス
第6章インテルの事例。独自のテクノロジーを持たない企業の、イノベーションのマネタイズ方法。
1) 専門特化型の研究活動
2) 大学や外部研究所とのネットワーク、資金提供による成果へのアクセス
3) インテル・キャピタル
第7章ルーセントの事例。社内の知識を市場化する方法。
- NVG(社内ベンチャーキャピタル)によるテクノロジーのビジネス化
知財戦略第8章オープン・イノベーションの世界では、自社の知的財産権を自社で利用するということにとどまらず、他社にライセンスすることで自社内で活用されてない知的財産権から利益を上げることもできる。
いずれの場合も、知的財産権の価値はビジネスモデルに依存するため、テクノロジーにとって有効なビジネスモデルを探すことが重要。
結び(実行戦略)第9章社内でオープン・イノベーションを起こすための方法。
(表:チェスブロウ『OPEN INNOVATION』の全体構成)

 

以下、ざっくりと感想です。

  1. 各社の事例を挙げてはいるものの、全体的にはマクロ・一般的な「イノベーションのあり方」論とその移ろいについて書かれた書物であり、潮流を理解するための本。それゆえに「技術経営」ジャンルの本流とも言える。
  2. 一方、概説的なので、最終章(第9章)を除くと実務的ではないかもしれない。実務家がアクチュアルに捉えることができるとしたら、自社が「クローズドイノベーション」型のプロセス・アプローチを選好する企業である場合は危機感を提示してくれたり、その打開方法を案内してくれるであろう。そういう意味でも、本書は大企業の人に向けたものになっているように思う。
  3. 関連書籍:
    • 本書でも著者が批判を加えている企業の「中央研究所」の日本でのあり方や、日本での事例を取り上げて解説しているものには榊原清則『イノベーションの収益化』(有斐閣, 2005年)がある。
    • 前述の通り、本書はすぐれて「ビジネスモデル」について論じた本である。「オープン・イノベーション戦略」が奏功する場合の所与の条件として「補完材」の有無による違いなどを挙げていることからは、ガワー&クスマノ『プラットフォーム・リーダーシップ』(有斐閣)もまた参考になろう。

 

Written by shungoarai

1月 28th, 2017 at 12:00 am