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Archive for 5月, 2015

[BookReview]峯村健司『十三億分の一の男 – 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争』

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東洋経済オンラインの「今週のHONZ」の記事で目にして気になったので、すぐ書店で買い求めて読了。取材で得た生々しい情報が読みやすい筆致で書かれていて、読み始めるとラストまで一気に読み進められました。

朝日新聞の特派員として北京で6年半を過ごした筆者は、

権力闘争こそが、中国共産党を永続させるための原動力なのではないか――。(略)
こうした見方をすると、習の評価も変わってくる。過去に例のない激しい闘争の末に誕生したからこそ、共産党にとっての最大の正統性を持ち、歴代の指導者よりも権力基盤をより早く強固なものにすることができたと言える。(pp.7-8)

という見方をしながら、「トラもハエもたたく」という習近平が進めている汚職摘発と、その裏側にある権力闘争の真実を描いています。

薄煕来や周永康の汚職事件の背後にあるより巨大な事件については、本書の第八章以降に譲るとして、私が本書を通じて興味深く思ったのは、習近平の (1) トップに上り詰めるまでと、(2) トップに上った後の権力基盤の確立過程です。

前者については、第七章で李克強とのトップ争いが詳述されています。1997年の第15回党大会で「中央委員候補」に当選した習近平(当時 福建省副書記)は、中央委員候補151名中151番目。後に一騎打ちをすることになる李克強(当時 共青団第1書記)は、すでにこの時点で中央委員に選出されていて、大きくリードしています。

「常にトップを走ってきた李克強がなぜ、一時は党幹部の中で最下位だった習近平に大逆転されたのだろうか」(p.230)という問いを立てる筆者は、以下のように考察しています。

圧倒的落差

  • 出世競争が厳しい中国共産党内においては、トップに近づけば近づくほど、反発や批判を受けやすくなる。仮に100人のライバルの中でトップになった瞬間、追い落とそうとする99人から攻撃の標的となるのだ。(p.230)
  • スロースタートでゴールまで最も遠かったダークホースは、最後の一騎打ちに向け、しっかりと脚をためていた。ピラミッドの頂点を目指すためのさまざまな下準備をしていた。(p.231)

性格の違い

  • 経済学の修士と法律学の博士を持ち、弁も立つ李だが、党内での人気が必ずしも高いわけではない。特に長老たちの評判が芳しくなく、党内選挙でも批判票を重ねる結果となった。前出の北京大の同窓生、王軍濤は「大学時代から論客だったが、相手を論破し過ぎて煙たがられることもあった」とも指摘する。(p.233)
  • 李との能力の差は明らかなように見える。だが、前出の閣僚級幹部経験者を親族に持つ党関係者の見方は、私とは異なる。「おまえの言うように李克強の方が個人として有能なのは確かだが、同じくらい頭脳明晰な党員は、我が党にはいくらでもいるんだ。最高指導者にとって最も重要なのは、そのたくさんの優秀な党員たちをまとめ上げていく『団結力』なんだ。(pp.233-4)

また、後者に関しても第九章ほか、至るところで触れられています。前任者であった胡錦濤は、その前任者であった江沢民に権力を握られ続けたことによってリーダーシップを発揮することができなかったのに対し、習近平はトップに上ると同時に手を打ちます。

「私は三つのステップで権力をつかもうと思っている。まず、江沢民の力を利用して胡錦濤を『完全引退』に追い込む。返す力で江の力をそぐ。そして、『紅二代』の仲間たちと新たな国造りをしていくのだ」

私は第18回共産党大会が終わった2012年末に、習近平が語ったというこの言葉をある中国政府幹部から聞いた。習がこの年の夏ごろ、親しくしている「紅二代」の党幹部に打ち明けた秘策なのだそうだ。(p.294)

本書に描き出された習近平の権力掌握過程の苛烈さを理解すると、先日の日経電子版の記事「誰も信じられない 国家主席を悩ます刺客の影」(2015年5月20日)の内容もよりリアルに感じられます。

ひな壇の中央に座る習。彼が会議中に飲むお茶用の蓋付き茶わんは、着席する直前に単独で運ばれてくる。(略)この日、女性スタッフの動きをじっと見つめる鋭い視線があった。2人の黒服の男性要員が左右から監視したのだ。女性スタッフの一挙手一投足も見逃さないというように。

こうした男性要員が、目立つ形で登場したのは今回が初めてだ。会議の途中、着席している「チャイナ・セブン」が飲む茶のわんに、後ろから湯を足す役割も、これまでの女性スタッフではなく、男性要員が担った。彼らには、お茶のサービスだけではない特別の任務があった。

「毒を盛られないように始終、監視する役割だ。万一、壇上に暴漢が現れても訓練された男性なら対処できる」

北京の事情通がささやく。男性要員は身分を隠しているが、習らに極めて近い信頼できる人物である。逆に見れば、お茶くみの女性といえども今の習には信用できない、ということになる。大量に捕まえた軍、公安・警察などの関係者が紛れ込んでいる可能性を排除できないのだ。

Written by shungoarai

5月 24th, 2015 at 7:32 pm

Posted in Books