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[映画] 2017年に映画館で観た51作品一覧

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2017年 ランク鑑賞順鑑賞日評価タイトル/原題監督製作年製作国
1212017/06/21★★★★★花様年華/In the Mood for Loveウォン・カーウァイ(王家衛)2000年中国香港
2242017/06/26★★★★★恋する惑星/重慶森林 (Chungking Express)ウォン・カーウァイ(王家衛)1994年英領香港
2252017/06/29 (2回目)★★★★★恋する惑星/重慶森林 (Chungking Express)ウォン・カーウァイ(王家衛)1994年英領香港
3152017/04/23★★★★★美女と野獣/Beauty and the Beastビル・コンドン2017年米国
3492017/12/24 (2回目)★★★★★美女と野獣/Beauty and the Beastビル・コンドン2017年米国
4452017/12/23★★★★★女神の見えざる手/Miss Sloaneジョン・マッデン2016年フランス・米国
592017/03/20★★★★★ミス・サイゴン:25周年記念公演 in ロンドン/Miss Saigon: 25th Anniversary Performanceブレット・サリバン2016年英国
682017/03/18★★★★★お嬢さん/아가씨 (The Handmaiden)パク・チャヌク2016年韓国
7222017/06/22★★★★★ブエノスアイレス/春光乍洩 (Happy Together)ウォン・カーウァイ(王家衛)1997年英領香港
842017/02/26★★★★★ラ・ラ・ランド/La La Landデミアン・チャゼル2016年米国
9332017/09/29★★★★★サーミの血/Sameblod (Sami Blood)アマンダ・ケンネル2016年スウェーデン・デンマーク・ノルウェー
1012017/01/06 (3回目)★★★★★君の名は。新海誠2016年日本
11312017/08/06★★★★☆ブランカとギター弾き/ Blanka長谷井宏紀2015年イタリア
12122017/04/02★★★★☆牯嶺街少年殺人事件/牯嶺街少年殺人事件 (A Brighter Summer Day)エドワード・ヤン(楊徳昌)1991年台湾
13192017/05/06★★★★☆台北ストーリー/青梅竹馬 (Taipei Story)エドワード・ヤン(楊徳昌)1986年台湾
14462017/12/24★★★★☆否定と肯定/Denialミック・ジャクソン2016年英国・米国
15272017/07/16★★★★☆裁き/Courtチャイタニヤ・タームハネー2014年インド
1652017/03/05★★★★☆沈黙:サイレンス/Silenceマーティン・スコセッシ2016年米国
17412017/12/22★★★★☆ありふれた悪事/보통사람 (Ordinary Person)キム・ボンハン2017年韓国
18302017/07/30★★★★☆ファウンダー:ハンバーガー帝国のヒミツ/The Founderジョン・リー・ハンコック2016年米国
19292017/07/22★★★★☆ダンサー、セルゲイ・ポルーニン:世界一優雅な野獣/Dancerスティーブン・カンター2016年英国・米国
20232017/06/25★★★★☆天使の涙/墮落天使 (Fallen Angels)ウォン・カーウァイ(王家衛)1995年英領香港
21102017/03/31★★★★☆ムーンライト/Moonlightバリー・ジェンキンス2016年米国
22522017/12/31★★★★☆希望のかなた/Toivon tuolla puolen (The Other Side of Hope)アキ・カウリスマキ2017年フィンランド
23162017/05/02★★★★☆メットガラ:ドレスをまとった美術館/The First Monday in Mayアンドリュー・ロッシ2016年米国
24142017/04/15★★★★☆ぼくと魔法の言葉たち/Life Animatedロジャー・ロス・ウィリアムズ2016年米国
25282017/07/16★★★★☆甘き人生/Fai bei sogni (Sweet Dreams)マルコ・ベロッキオ2016年イタリア
26342017/10/21★★★★☆婚約者の友人/Frantzフランソワ・オゾン2016年フランス・ドイツ
27362017/11/11★★★★☆Ryuichi Sakamoto: CODAスティーブン・ノムラ・シブル2017年米国・日本
28382017/11/23★★★★☆Avicii: True Storiesレバン・ツィクリシュビリ2017年スウェーデン
2962017/03/11★★★★☆ヨーヨー・マと旅するシルクロード/The Music of Strangersモーガン・ネヴィル2015年米国
30472017/12/24★★★★☆ダンシング・ベートーヴェン/Beethoven par Bejart (Dancing Beethoven)アランチャ・アギーレ2016年スイス・スペイン
3172017/03/12★★★★☆たかが世界の終わり/Juste la fin du monde (It's Only the End of World)グザヴィエ・ドラン2016年カナダ・フランス
32172017/05/05★★★☆☆エルミタージュ美術館:美を守る宮殿/Hermitage Revealedマージー・キンモンス2014年英国
33392017/12/16★★★☆☆猫が教えてくれたこと/Kediジェイダ・トルン2016年米国
3432017/02/25★★★☆☆スノーデン/Snowdenオリバー・ストーン2016年米国
35202017/05/28★★★☆☆マンチェスター・バイ・ザ・シー/Manchester by the Seaケネス・ロナーガン2016年米国
36262017/07/03★★★☆☆ハクソー・リッジ/Hacksaw Ridgeメル・ギブソン2016年米国
37532017/12/31★★★☆☆シネマ歌舞伎:一谷嫩軍記 熊谷陣屋-2011年日本
38432017/12/23★★★☆☆シネマ歌舞伎:め組の喧嘩-2017年日本
39372017/11/12★★★☆☆ザ・サークル/The Circleジェームズ・ポンソルト2017年米国
40442017/12/23★★★☆☆ロダン:カミーユと永遠のアトリエ/Rodinジャック・ドワイヨン2017年フランス
41482017/12/24★★★☆☆ヒトラーに屈しなかった国王/ Kongens nei (The King's Choice)エリック・ポッペ2016年ノルウェー
42182017/05/05★★★☆☆カフェ・ソサエティ/Café Societyウディ・アレン2016年米国
43132017/04/08★★★☆☆ゴースト・イン・ザ・シェル/Ghost in the Shellルパート・サンダース2017年米国
44512017/12/30★★★☆☆アランフエスの麗しき日々/Les beaux jours d'Aranjuez (The Beautiful Days of Aranjuez)ヴィム・ヴェンダース2016年フランス・ドイツ・ポルトガル
45112017/04/02★★☆☆☆ジャッキー:ファーストレディ 最後の使命/Jackieパブロ・ラライン2016年米国
46502017/12/30★★☆☆☆ローマ法王になる日まで/Chiamatemi Francesco - Il Papa della gente (Call Me Francis)ダニエル・ルケッティ2015年イタリア
47322017/09/02★★☆☆☆米軍(アメリカ)が最も恐れた男:その名は、カメジロー佐古忠彦2017年日本
48352017/10/29★★☆☆☆ブレードランナー 2049/Blade Runner 2049ドゥニ・ヴィルヌーヴ2017年米国
4922017/01/08★★☆☆☆ローグ・ワン:スター・ウォーズ・ストーリー/Rogue One: A Star Wars Storyギャレス・エドワーズ2016年米国
50422017/12/22★★☆☆☆スター・ウォーズ:最後のジェダイ/ Star Wars: The Last Jediライアン・ジョンソン2017年米国
51402017/12/20★☆☆☆☆オリエント急行殺人事件/Murder on the Orient Expressケネス・ブラナー2017年米国

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Written by shungoarai

12月 31st, 2017 at 7:45 pm

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[映画] 2017年7〜9月の映画感想

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No.鑑賞日評価タイトル/原題製作年/製作国監督
262017/07/03★★★☆☆ハクソー・リッジ/Hacksaw Ridge2016年/米国メル・ギブソン
272017/07/16★★★★☆裁き/Court2014年/インドチャイタニヤ・タームハネー
282017/07/16★★★★☆甘き人生/Fai bei sogni (Sweet Dreams)2016年/イタリアマルコ・ベロッキオ
292017/07/22★★★★☆ダンサー、セルゲイ・ポルーニン:世界一優雅な野獣/Dancer2016年/英国・米国スティーブン・カンター
302017/07/30★★★★☆ファウンダー:ハンバーガー帝国のヒミツ/The Founder2016年/米国ジョン・リー・ハンコック
312017/08/06★★★★☆ブランカとギター弾き/Blanka2015年/イタリア長谷井宏紀
322017/09/02★★★☆☆米軍(アメリカ)が最も恐れた男:その名は、カメジロー2017年/日本佐古忠彦
332017/09/29★★★★★サーミの血/Sameblod (Sami Blood)2016年/スウェーデン・デンマーク・ノルウェーアマンダ・ケンネル

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Written by shungoarai

10月 1st, 2017 at 9:30 pm

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[BookReview] 政権初期の内紛に見る戦略論や組織論:亀田俊和『観応の擾乱』

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▼Week35-#01:亀田俊和『観応の擾乱:室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』(中公新書, 2017年)

感想:★★★★☆
読了:2017/08/27

土曜の日経新聞朝刊に歴史学者の平山優氏による書評が載っていた。

本書は、複雑な政治史と内乱を経て形成されていく幕府の政治機構などを、実にわかりやすく描きだした。とりわけ、まず事象に関する定説、通説を置き、その問題点を研究の現状をもとに指摘、さらに史料に基づく亀田氏の考えが対置される叙述は、スリルに満ちており、初学者でも歴史学の醍醐味を十分愉しめることだろう。(記事リンク

興味を持ってメモ代わりにツイートをしたところ、著者の先生にリツイートいただいたので、早速購入して読んでみた。


しばらく、歴史に関連する書籍は、話題の『応仁の乱』も、それこそこの書評を書いた平山氏の『武田氏滅亡』も積読になってしまっているけれど、本書は分量も手頃だったので、読みだしたら週末のうちに読み終えることができた。

「観応の擾乱」は確かに高校レベルの日本史の教科書では太字で記載される固有名詞ではあるけれど、「足利家と重臣 高師直らの内紛」という程度にしか記憶していない。それ以前に、そもそも建武期から室町幕府成立期のあたりの歴史というのは漠然とした印象で、足利尊氏も弟 直義も高師直も、いずれもふわっとしたイメージしかない。それゆえに最近角川選書で出ていた『足利尊氏』という書籍も、書店で目にした時もかなり気になった。

本書の終章で著者がまとめているように、観応の擾乱は「問題は…頻繁に極端に優劣が入れ替わり、内戦が長期化したことなのである。これが“普通の”内乱との決定的な違いである」(p.223)という「実に奇怪な内乱」(p.215)だという。確かに、攻守が頻繁に入れ替わるダイナミックさもあり、飽きずに読み進められる。そして、高師直は通説とは違って無欲だったのではないかと評価する著者は、無欲ゆえに他人に対してもしょっぱい論功行賞に対する不満と、足利家の中の対立による内戦であるという明解な説明をしている。

特に興味深く感じたのは、直義が尊氏・師直に圧勝後、講和に応じて師直を筆頭とする高一族を惨殺することで終わる第一幕と、その五ヶ月後に始まる第二幕との間に「束の間の平和」について書かれた第4章だ。ここにはスタートアップ企業にとっても、何らかの示唆があるかもしれない。

  1. 再起・逆転のために不可欠なシングルポイントの発見と奪取
    • 尊氏は弟 直義に惨敗を喫するが、講和の協議で勝ち取った条件がその後の大逆転を可能にしている。「真因」の発見の重要性。
    • 観応の擾乱第一幕を通じて、尊氏は自身の敗因を正確に分析したと思われる。恩賞充行が不十分だったからこそ、不満に思う武士たちが直義に味方して敗北したのだ。ならば、自身が将軍として恩賞充行を広範に行えば、離れた武士たちもふたたび戻ってくるに違いない。そう考えた尊氏は、恩賞充行権だけは死守することを目指した。(p.117)

  2. 戦乱期と安定期、あるいは0→1期と1→10期でのメンバーの適性(得手・不得手)
    • 第一幕を終えた「束の間の平和」の時期が訪れると、官僚的機構や仕事が生まれる。そしてそれは、直前まで行われていたような戦乱に必要とされるスキルと異なっているために、論功により得たポストとスキルとがアンマッチする可能性がある。
    • しかも彼ら〔引用者注:新たに引付頭人に任じられた武将たち〕の多くは、建武以来の歴戦の武闘派である。擾乱以前から引付頭人や内談頭人を務めていた〔石橋〕和義を除き、引付方の訴訟業務は未経験で不向きの者ばかりであった。直義に引付頭人に任命されることは、ありがた迷惑だったと思われる。(p.123)

  3. 評価の公平性と公正性のトレードオフ
    • 第一幕後、直義の政治機構(鎌倉幕府からの旧来型組織の性質が強い)が強化されたことに反発した足利義詮は、「御前沙汰」という親裁する機関を創る。土地をめぐる争いに対して双方の意見を聞いて判断する点で、直義の司る「理非糾明」は公平であるものの時間と費用を要した。一方で、義詮の志向した形は「一方的裁許」であるものの、評価される側には歓迎されるケースも多かったのかもしれない。
    • 事実上の恩賞方である御前沙汰が所務沙汰をはじめた意義はきわめて大きい。幕府の役割が、訴人・論人双方の主張を聴いて公平な裁定を下す調停者から、政権に貢献した者に対して恩賞として利益を与える主君へと大きく変質したことを暗示するからだ。中世日本の訴訟の性質が、観応の擾乱を境目として画期的に変化しはじめたのである。(p.141)

Written by shungoarai

8月 28th, 2017 at 1:00 am

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[BookReview] 頻繁かつ迅速な小さな決定による将来の大きな決定の回避:野中郁次郎『知的機動力の本質』

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▼Week28-#01:野中郁次郎『知的機動力の本質:アメリカ海兵隊の組織論的研究』(中央公論新社, 2017年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/07/11

名著『失敗の本質』の著者による新刊。『失敗の本質』は日本軍の作戦を分析した「失敗した組織」の研究であるのに対して、本書は米海兵隊という「勝つ組織」の研究。2部構成で、前半の第1部は著者による研究、後半の第2部は「機動戦(Maneuver Warfare)」へのパラダイムシフトを著した海兵隊のドクトリン『ウォーファイティング(Warfighting)』(第2版, 1997年)の翻訳。ひとまず第1部まで読了。

「組織論的研究」と副題にはあるものの、主題に掲げられた「知的機動力(Knowledge Maneuverability)」という軸に重きが置かれている本書は、「これまで進めてきた知識経営の『組織的知識創造理論』という研究成果をアメリカ海兵隊に応用した」(p.iii)もので、第1部の後半では『知的創造の経営』などに出てくる「SECIモデル」(参考)とボイド空軍大佐による「OODAループ」(参考)とを対比したり、ポランニーによる「形式知/暗黙知」やアリストテレスによる「エピステーメー/テクネー/フロネシス」(『ニコマコス倫理学』)といった知識論的考察の面が強い。

実務家として本書を読むのであれば、(1) 米海兵隊が提示した「機動戦」というパラダイムの本質と、(2) そのパラダイムに合わせていかなる組織を作るか、に着目して追うのがよい。

機動戦とは「戦場において物理的・心理的に相手を追い詰めて勝つことを目的とし、予測不能な行動をすばやく取って敵を混乱させ、その混乱に乗じて最も脆弱な点に兵力を集中して突破する『賢い戦い方』」(p.50)で、「兵器の力を最大限に活かし、敵を物理的な壊滅状態に追い込もうとする決戦主義の考え」(p.51)にもとづく「消耗戦」(Attrittion Warfare)の反対に位置づけられる。

 消耗戦機動戦
目的敵の物理的な壊滅状態敵の物理的・心理的劣位による戦意喪失
勝利のキー圧倒的な軍事力・兵站力意思決定・兵力移動・兵力集中などの迅速なプロセス
対応する組織中央集権的な官僚組織自律分散的・協働的なネットワーク型
組織の思考様式サイエンス的思考アート的思考

歴史上、陸海空の三軍と異なりたびたび「不要論」の浮上した海兵隊は、「1775年の創設以来、何度も存在価値を問われてきた組織であり、その度に自己革新組織として変わり続けて成果を出し、すなわち知的機動力を発揮し新たな存在価値を創造」(p.171)してきた。「水陸両用作戦」・「機動戦」といったパラダイムはそうした「自己革新」の産物でもある。

MEU[Marine Expeditionary Unit, 海兵遠征隊]は、通常の隊が通常任務と特殊任務の両方を遂行するので、特殊部隊ではない。陸軍のグリーン・ベレーやデルタ・フォース、海軍のシールズ、空軍のAC-130ガンシップは特殊部隊であり、高い投資で高度の専門性を育成するエリート集団であるが、MEUは海兵隊の通常の隊で構成され、通常任務と臨機応変の専門技術をもつ。(略)海兵隊では、ライフルマンが航空機、ヘリコプター、戦車などを動かしていると言ってよい。(p.65)

本書では、「海兵隊員すべてライフルマン(Every Marine a Rifleman.)」(p.71)というあり方や、「海兵隊をやめても彼は一生海兵隊員であり続ける(Once a Marine, Always a Marine.)」(p.80)といった言葉にあらわれる「共通のアイデンティティ」(p.157)に根ざした相互の信頼や連帯意識の強さに幾度となく触れられる。

こうして作られた一枚岩のチームによって可能になっているものは、(1) 各人のケイパビリティを知った上での有機的なチームワーク展開と、(2) 現場への有効な権限委譲であろう。

すべての海兵隊員は、階級や職種のいかんにかかわらず、どんな状況下にあっても、すぐさまライフルをひっつかんで闘えるのだ。(略)歩兵は他の機能と有機的に同期化した時に強力な機動戦を展開できる。海兵隊の機能は、ライフルマンを中心とするネットワークとして、地上支援、輸送・艦砲支援、役務支援、近接航空支援が有機的に配置されているのである。(p.158)

この箇所は、小規模なスタートアップですら高度に専門分業化されている場合がほとんどである企業体と比較すると違いが顕著だ。組織の「共通言語」は業務レベルのある一定スキル(あるいは集団的に共有された暗黙知。SECIモデルにおける「共同化 Socialization」)と言い替えることもできるのかもしれない。

また、機動戦において常に最前線に展開する海兵隊では、「任務戦術」(mission tactics)と称して現場への権限委譲が行われる。

任務を完遂するために必要とあれば、最前線のリーダーが通常なら大佐が下すような判断を行うことさえある。「指揮」のトップダウンと「統制」のボトムアップを両立させるのである。海兵隊にとって、「統制」はボトムアップを意味する。状況に応じて必要になる意思決定の権限、「オンデマンドの権限」を下位に与える、つまりマイクロ・マネジメントをしないことによって、フラット化ないしネットワーク化された組織構造よりも高い速さと有効性を発揮できるのである。(p.88)

こうした部分も刻々と状況が変化するような事業環境における個々人の判断に対して示唆がある。たとえばアンディ・グローブが「目標や望ましいアプローチを伝えることが権限委譲の成功のカギとなる」(『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』p.91)と言うことと、野中氏がここに続く箇所で語る内容は同じことだ。

部下に大局観を与えつつ、個別の文脈に適合させる実行方法は実行者に任せる。流動する状況では、目的を遂行する実行手段が機能しなくなっても、「目的」と「理由」を理解しておけば臨機応変にほかの手段を用いることができるからだ。指揮官は、部下にやり方を指示しない努力をするのである。そして権限を移譲したからには、部下の行為に対してみずからも責任を取る。(p.89)

総じて『失敗の本質』とは方法論がかなり異なっている印象で、ことさら海兵隊礼賛の感すら否めないものとなっているが、ベンチャー企業の組織づくりやマネジメントという部分では大いに学びもある書物。もう一箇所、以下に引用する部分は、常に頭に置いておきたいと感じた。

海兵隊では、意思決定では速さと大胆さを求められる。80パーセントの解決とは、「即断という長所を備えた不完全な決定」のことであるが、これは衝動的な意思決定や即席のずさんな計画とは異なる。「小さな決定を頻繁かつ迅速に重ねていけば、土壇場に立たされた状態で、大きな決定を下さずにすむかもしれない」と考えられており、時間が最優先され、あらゆる角度から解析することによって決定を保留することは許されない。(p.89)

Written by shungoarai

7月 12th, 2017 at 1:10 am

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[映画] 2017年4〜6月の映画感想

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No.
(年間通算)
鑑賞日評価タイトル/原題製作年/製作国監督
112017/04/02★★☆☆☆ジャッキー:ファーストレディ 最後の使命/Jackie2016年/米国パブロ・ラライン
122017/04/02★★★★☆牯嶺街少年殺人事件/牯嶺街少年殺人事件(A Brighter Summer Day)1991年/台湾エドワード・ヤン(楊徳昌)
132017/04/08★★★☆☆ゴースト・イン・ザ・シェル/Ghost in the Shell2017年/米国ルパート・サンダース
142017/04/15★★★★☆ぼくと魔法の言葉たち/Life Animated2016年/米国ロジャー・ロス・ウィリアムズ
152017/04/23★★★★★美女と野獣/Beauty and the Beast2017年/米国ビル・コンドン
162017/05/02★★★★☆メットガラ:ドレスをまとった美術館/The First Monday in May2016年/米国アンドリュー・ロッシ
172017/05/05★★★☆☆エルミタージュ美術館:美を守る宮殿/ Hermitage Revealed2014年/英国マージー・キンモンス
182017/05/05★★★☆☆カフェ・ソサエティ/Café Society2016年/米国ウディ・アレン
192017/05/06★★★★☆台北ストーリー/青梅竹馬(Taipei Story)1986年/台湾エドワード・ヤン(楊徳昌)
202017/05/28★★★☆☆マンチェスター・バイ・ザ・シー/Manchester by the Sea2016年/米国ケネス・ロナーガン
212017/06/21★★★★★花様年華/In the Mood for Love2000年/中国香港ウォン・カーウァイ(王家衛)
222017/06/22★★★★★ブエノスアイレス/春光乍洩(Happy Together)1997年/英領香港ウォン・カーウァイ(王家衛)
232017/06/25★★★★☆天使の涙/墮落天使(Fallen Angels)1995年/英領香港ウォン・カーウァイ(王家衛)
242017/06/26★★★★★恋する惑星/重慶森林(Chungking Express)1994年/英領香港ウォン・カーウァイ(王家衛)
252017/06/29
(2回目)
★★★★★恋する惑星/重慶森林(Chungking Express)1994年/英領香港ウォン・カーウァイ(王家衛)

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Written by shungoarai

7月 1st, 2017 at 12:00 am

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[BookReview] L. ギャラガー『Airbnb Story』

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▼Week26-#01:リー・ギャラガー『Airbnb Story:大胆なアイデアを生み、困難を乗り越え、超人気サービスをつくる方法』(日経BP社, 2017年)

感想:★★★★★
読了:2017/06/29

はじめてAirbnbを使ったのは2011年6月のこと。会社を移るインターバルの休暇で行った旅行の裏テーマは「Airbnbを使ってみたい」ということで、帰国した後にそれをブログに書いた([雑記]帰国しました(メモ1:Airbnbを使ってみた))。

ひさびさに起業ストーリーものの本を読み始めたけれど、途中で全く飽きが来ることなく読み切った。5月末に邦訳が出たばかりで、原書 “Airbnb Story” も今年の2月に刊行されたものなので、シェアリングエコノミーのユニコーン Airbnbをかなり直近の出来事まで追った本。

本書は、デイビッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』のような競争と興奮の起業サクセスストーリーで終わることなく、以下の2点から興味深く感じた。

  1. ビジネスエコシステムの観点
    • Airbnbというマーケットプレイス型のプラットフォームが急成長を遂げると、そこに補完的なサービスも次々と現れる。
      • ホストコミュニティが拡大するにつれ、ホストへの支援サービスを行うスタートアップも次々と生まれている。シーツ交換、枕干し、ベッドメイク、鍵の受け渡し、物件管理、ミニバーサービス、税務サービス、データ分析など。エアビーアンドビー版ゴールドラッシュの『つるはし調達屋』と呼んでもいい。(p.132)

      • 本書中では、以下のような例が挙げられている。Everbookedのサイトに「Our Client」としてPillowのロゴが掲載されていることからは、補完業者間でも関係が生まれていることが窺える。
        • ホスト向け管理サービス「Guesty」、「Pillow
        • サプライ品調達サービス「オナータブ」
        • ダイナミックプライシングツール「Everbooked
        • 鍵の受け渡しサービス「Keycafe
    • 一方で、日本でも民泊について規制と規制緩和が論じられているのと同様に、各国・州・都市での規制との戦いも描かれている。背景には観光政策のほかにも、住宅政策がある(ニューヨーク市は3.4%の空室率という賃貸住宅不足から、さらなる住宅不足を招くようなビジネスを許容しにくい)。またホテル業界もコンペティターとなってきている。ビジネスを取り巻く所与の環境には、どのような力が働いているのかを立体的にイメージするのによい素材。
  2. 起業家自身の成長の観点
    • 3人の共同創業者のチームは、ほとんどビジネス経験がないなかでAirbnbを創業し、急成長させている。第7章「リーダーになる」は、彼らがいかに経営者として成長していくかが描かれており、ここにはさまざまな学びが含まれているように思った。チェスキーの学習姿勢・意欲、ゲビアの気づいた「象、死んだ魚、嘔吐」など。
    • そして、何より粘り強さや、大きなアイデアを持ち続けることが重要だということに立ち返らせてくれる。
      • チェスキーはほかの起業家にずっとこの作戦を勧めている。「ローンチしてだれも気付いてくれなかったら、何度でもローンチすればいい。ローンチして、誰も気付いてくれなかったら、何度でもローンチすればいい。ローンチしたら、そのたびに記事にしてくれるから」(p.42)

      • よく見逃されているが、エアビーアンドビーは今も昔も実行力で抜きん出ている。(p.317)

    • 起業家自身もこの成長に自覚的であることが印象的だ。それは創業者たちの自負の反映でもあり、自らに課した負荷でもあるはずだ。
      • 「問題はね…本に残るのが、たまたまその瞬間のこの会社を切り取った姿だけってことなんだ…僕は34歳で…会社はまだ若い。先は長いし、これからまだたくさんのことをやる…今みんなが思ってるエアビーは、2年前のエアビーだ」(pp.7-8)。

Written by shungoarai

6月 29th, 2017 at 10:00 am

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[映画] 2017年1〜3月の映画感想

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No.鑑賞日評価タイトル/原題製作年/製作国監督
12017/01/06 (3回目)★★★★★君の名は。2016年/日本新海誠
22017/01/08★★★☆☆ローグ・ワン:スター・ウォーズ・ストーリー/Rogue One: A Star Wars Story2016年/米国ギャレス・エドワーズ
32017/02/25★★★★☆スノーデン/Snowden2016年/米国オリバー・ストーン
42017/02/26★★★★★ラ・ラ・ランド/La La Land2016年/米国デミアン・チャゼル
52017/03/05★★★★☆沈黙:サイレンス/Silence2016年/米国マーティン・スコセッシ
62017/03/11★★★★☆ヨーヨー・マと旅するシルクロード/The Music of Strangers2015年/米国モーガン・ネヴィル
72017/03/12★★★★☆たかが世界の終わり/Juste la fin du monde2016年/カナダ・フランスグザヴィエ・ドラン
82017/03/18★★★★★お嬢さん/아가씨2016年/韓国パク・チャヌク
92017/03/20★★★★★ミス・サイゴン:25周年記念公演 in ロンドン/Miss Saigon: 25th Anniversary Performance2016年/英国ブレット・サリバン
102017/03/31★★★★☆ムーンライト/Moonlight2016年/米国バリー・ジェンキンス

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Written by shungoarai

4月 1st, 2017 at 12:00 am

Posted in Film

[BookReview] 日本的組織ではなぜ上級幹部は愚劣な意思決定を繰り返してしまうのか:(再読) 池田信夫『「空気」の構造』

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▼Week12-#01:池田信夫『「空気」の構造 – 日本人はなぜ決められないのか』(白水社, 2013年)

感想:★★★★★
読了:2017/03/25(再読)

バタバタしてしまったので当初予定していた論文を置いて、3年ほど前に一度読んだことのあるやや読みやすめの本を再読。とはいっても、ここ最近の自分自身の問題意識からバイネームで書名が念頭に挙がっていて読み返したかった本でもあります。

本書は、サブタイトルにあるように「日本人はなぜ決められないのか」ということをテーマに、有名な「日本人論」を参照しながら日本的組織の特徴を論じた書籍。そういった意味では、本書中でも取り上げられる『失敗の本質』と同様、組織人として得るものが多い本です。冒頭で「これまでの日本人論は学問的な根拠のない印象論が多いので、本書では経済学や歴史学の成果を応用して、なるべく学問的に考えてみたい」(池田『「空気」の構造』p.11)と著者も述べているように、過去の目立った文献を縦横無尽に行き来する読み応えのある書籍です。

中村伊知哉氏はその書評(リンク)の冒頭、本書の帯に踊る「社員は優秀なのに経営者が無能!?」というコピーに触れるところから始めていますが、このコピーは中村氏の言うとおり営業用コピーであるとともに、本書の中盤、『失敗の本質』を引いた章にある次の一節に対応しているように思います。

1939年にノモンハンで関東軍と旧ソ連軍が戦って日本軍が惨敗したとき、ソ連軍指揮官のジューコフ将軍は、日本軍について「下士官兵は優秀、下級将校は普通、上級幹部は愚劣」と評し、これが日本軍についての評価の定番となった。(同, p.144)

本書は、日本的組織では「上級幹部(トップマネジメント)」がなぜ「愚劣」な意思決定を繰り返してしまうのかを論じたものといえます。論じられている枠組みを端折ると以下のようになります。

  1. 人類の規範の「最古層」には、「集団淘汰」のメカニズムが存在する。これは「個体群の中では利己的な個体が利他的な個体に勝つが、利他的な集団は利己的な集団に勝つ」(p.195)というものだ。人類の200万年の歴史の内、新石器時代に入る1万年前以前の大半は狩猟採集社会を生きていた時代であり、この時代の行動規範にあったはずの「プリミティブな平等主義」(p.210)は遺伝的な感情として残っていよう。
  2. 定住・農耕社会に至り、「最古層=プリミティブな平等主義」の上に「古層」が沈殿する。日本においては、地理的な特殊性から「気候や水に恵まれて豊かで対外的な戦争がなく、同質的な人々が一つの村で一生すごす安定したコミュニティが数千年にわたって維持された」(p.49)。ゲーム理論(囚人のジレンマ)からも明らかなように、こういった「特定の集団の中でインサイダーだけを信頼する『安心社会』…では長期的関係(彼〔=山岸俊男〕のいうコミットメント関係)のある相手だけを信頼する」(p.45)。結果として、同調圧力や排他的システム(=「空気」)が強化される。
  3. この同調圧力の強さはコミュニティ内部の紐帯を強化する一方、組織の目的意識の欠如という状況を生んでしまう。これには、上記のとおり大きな戦争に巻き込まれたことがなく「目的」を意識しなくてはならない事態の経験が少なかったことや、キリスト教的な時間意識(天地創造の日から最後の審判の日まで直線的に流れる物語のなかで、そのゴール=神の国における救済に向けた目的意識が働く)に相当するようなものがなかったためでもある。
  4. これらの結果、全員が長期的な関係に結びついたコミュニティは「多数決ではなく全員一致」(p.105)になりがちであり、リーダーシップは下位階層からボトムアップであがってきたものの「調整型」となる。そこでは目的よりも「組織内の人間関係が重視され、面子や前例主義がはびこり、組織が自己の存続のために『自転』する」(p.60)。

本書中では、この1~4を表層から古層、最古層へと掘り進める形で(つまり4~1の順で)探り当てていきます。ここで重要になってくるキーワードは「水利構造」・「逆エージェンシー問題」と、「下克上」です。

前者の「水利構造」と「逆エージェンシー問題」についての詳細は同書 p.49と p.108の明解な図を参照されたいところですが、農村における用水組合の上流・下流構造と、株主よりも従業員共同体の利益を守ることに傾きがちな日本企業の経営とに相似を見出します。

日本の農村の水利構造においては、下流の村が決定権を持ち、それらを調整する形で上流の意思決定がなされていくとされ、皇帝=上流が集中的に水利権を持っている中国型とは全く異なります。この構造は同様に「水利構造における上流:下流=企業経営における株主:社内経営者=企業内部における経営者:労働者」といった比例関係になり、本来は「株主=プリンシパル(依頼人)、経営者=エージェント(代理人)」であるはずのものが、「経営者=プリンシパル、株主=資本を提供するだけのエージェント」となってしまっていると著者は見ます。

日本の組織では … 現場で決定と実行が行われ、全体を統括する決定者がいない。形式的にはいるが、現場から上がってきた決定を追認するだけの「みこし」になっている。(略)天皇制に代表される日本型デモクラシーは、決定が現場に近いので小さな変化に柔軟に対応できる反面、現場を削減するような大きな意思決定ができない。(p.108)

この部分は上記の枠組みのうちの2~4に当たるのですが、もうひとつのキーワードとなる「下克上」の淵源を「最古層」たる「プリミティブな平等主義」に求めることで1と2とをつなぎます。

… 日本は大きな戦争を知らないまま近代化し、その「平和ボケ」の体質が今も残っている。民族が絶滅されるとか他民族の植民地にされる過酷な体験を知らないため、国全体を守るリーダーが生まれず、ローカルな「部落の平和」が最優先され、その利害調整の結果として国家の政策が決まる。西洋でも中国でも、自然発生的な「古層」の上に意識的な権力機構が構築されたのだが、日本では何となく強い大名が勝つという形で事実上の権力者が決まり、江戸時代まで全国の支配者がいなかった。(p.208)

前述の「地理的特殊性」は長期的関係が前提となったコミュニティを生むとともに、強いリーダーシップが不要な環境をも生んでしまったということでしょう。そのため階層構造が権力構造になることを「プリミティブな平等主義」観念が拒み、「下克上」という形をとります。

この「下克上」のメンタリティは、例えば「外国人と一緒に仕事をして感じるのは、彼らは『命令されないと動かない』のに対して、日本人は『命令されるのをいやがる』」(p.178)という形で遍在します。このあたりは、與那覇潤氏の『中国化する日本』でも語られていたように思います。

以下、考えたことや、あとで考え直すためのメモ。

  • 企業経営の実際の中で、「ボトムアップ」や「全員一致」という形式を重視する傾向はしばしば見られる。また、それは裏返すと「誰も決めないシステムでは、全員が自分で決めたような参加感をもつのでモチベーションが高まる」(p.157、強調部引用者)ということでもあり、残念なことにモチベーションと目的意識や責任意識とがトレードオフということになってしまっている。歴史的・風土的な宿命論とせずに、これを超克する方法なり仕組みを考えなくてはならない。
  • 企業における「経営/現場」間の意思決定の逆転のケースは見知っていたことでもあるが、上記の「逆エージェンシー問題」にあるように「株主/経営」間でも意思決定の逆転が起きていることについても、無意識であったが思い当たる部分も多い。
  • 本書では「日本型デモクラシー」一般のみならず、日本「企業」の組織や雇用のあり方についてもさまざまに触れている。「年功序列」(p.70-1、p.180-1)を含む労使関係に関する記述は、第5週に読んだ『MBAのための日本経営史』での解説もあわせて確認しておきたい。
  • 「日本的経営」の評価については、下記の箇所は非常にフェアだと感じた。
    • … 「日本的経営はなぜこんなにすぐれているのか」という問いは間違いで、「日本企業はなぜ自動車や家電に強いのか」と問うのが正しい。日本企業が強いのは「2.5次産業」と呼ばれる知識集約的な製造業だけだが、それがたまたま70~80年代に花形産業になり、また自動車やテレビなどの規格が標準化されていて世界市場が成立したために、「日本の奇蹟」と見えたのだ。(p.165)
  • 他の書物でもしばしばそう評されているように、本書でも東條英機は「小心で凡庸なサラリーマン」(p.153)と評される。彼のパーソナリティ然り、昇進をしていくプロセスもまさにそうなのであるが、つまるところ「東條英機的」マネージメントは、単に個人の資質や戦時報道ばかりならず日本的組織が生み出した帰結でもあり、こうした「調整型」人物がプロモーションしやすい環境がある以上は同様のマネージメントが再生産されうるということに、日本企業(組織)は意識的になる必要があろう。
    • 東條のもう一つの特徴は、手続き論への異常なこだわりだった。他人を論理で説得することが苦手な分、形式的な法律論で相手をねじ伏せようとする。皇道派を追放した陸軍では下克上への警戒が強まり、上の命令を忠実に守って反抗しない東條のような軍人が模範とされたのだ。こうして人望も能力もない東條が「消去法」で、するすると陸相になった。彼は石原〔莞爾〕とは違って調整型で敵が少なく、周りが警戒心を抱かなかったことも幸いした。(p.154)
  • この「空気」なるものを探り合う営為の結果のひとつが、ここ最近話題になっている「忖度」であろう。外国人記者クラブの会見で通訳がこの語の翻訳に難渋したのも、実に日本的な精神構造に根ざしたものであるゆえだ。前述のように「誰も決めないシステム」内での事象であるため、例の事案も真偽は実際どうであったかは別として、「忖度」がなかったということを立証することは「悪魔の証明」だ。

Written by shungoarai

3月 26th, 2017 at 1:00 am

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[BookReview] 新藤晴臣『アントレプレナーの戦略論』

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▼Week11-#01:新藤晴臣『アントレプレナーの戦略論 – 事業コンセプトの想像と展開』(中央経済社, 2015年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/03/17

2冊続いたファイナンス関連を離れてアントレプレナーシップに関する書籍に戻りました。大阪市立大学大学院(アントレプレナーシップ研究分野)准教授による『アントレプレナーの戦略論』は、大企業に関する研究をもとに発展した経営戦略論の新興企業への適用をテーマとして書かれた本。

アントレプレナーが〔大企業の研究に基づいて開発され、実践への適用事例としても大企業のものが多い〕経営戦略論を実践に適用しようとした場合、かなりの労力と(自己流に近い)解釈が必要」(新藤『アントレプレナーの戦略論』ii)という課題意識から書かれているので、巷間に広まっている有名なフレームワーク(3C、4P、PPM、SWOT、5フォースなど)をどのように使いこなすかを平易に書いたものでもあり、これらのフレームワークについてある程度知識がある人であれば読み飛ばしてスピーディに読めると思います。

それらの環境分析や経営戦略のフレームワークを用いたうえで、本書では、D.F. エーベル(『事業の定義』)の議論などに基づく「事業コンセプト」にまとめ、組織内外のプレイヤーと事業定義に関する認識合わせ(ドメイン・コンセンサス)がされることが重要だと説かれます。「事業コンセプト」は「自社は何屋さんであるか」であり、①顧客=Who、②顧客機能=What、③代替技術=Howの軸で整理されるとしています。

以下メモ。

  • 本書の企図に反して、第3章以降の「実践適用」に関するパートよりも、これまで経済学・経営学でいかにアントレプレナー(あるいはアントレプレナーシップ)が扱われてきたかを概観した第1〜2章がよくまとまっていて参考図書リストとしてよいと思った。
  • ことイノベーションに関してよく引き合いに出されるJ. シュンペーターに加えて、I. カーズナーを持ってきて比較している箇所は面白かった。「アントレプレナーの本質的な役割について、シュンペーターは『不均衡をつくり出す勢力』ととらえ、革新によって変化を引き起こすとしている。一方カーズナーは、『均衡をつくり出す勢力』ととらえ、変化の発生を認識し、それに反応する存在と説明している」(同書, p.8)。この枠組みは、他の研究者の成果を引用しながら後半でも現れる。新興企業の成長ステージを3つに分けたとき、「〔不連続な変革が行われる〕①スタートアップ期と③安定期には『シュンペーター型』のアントレプレナーシップが、〔漸進的な変革が行われる〕②成長期には『カーズナー型』のアントレプレナーシップが、それぞれ出現すると論じられている」(同書, p.193)。これは、新興企業のめまぐるしく変わる事業フェーズもしくは経営フェーズによって、どのようなマネジメントが必要とされるかという議論とも対応している。
  • 各章の章末には、それぞれの章で述べられたフレームワークの実践適用事例として著者の関わったケースの紹介がある。興味深いものもあるが全体的には物足りない印象(外部環境のリスク認識や、自社の強みに関する自己認識の面での甘さや、プライシング決定に関する唐突感など)。逆に考えると、事業に直接携わる人物が事業計画を作ると、このように死角が生まれがちだということを教えてくれ意味で、とても参考になるかもしれない。3Cに関する説明箇所で書かれるように、「アントレプレナーシップを実行する経営戦略では、前述の3つのプレーヤーのうち、自社(Company)が最も重要な要素となる。アントレプレナーシップを実行する新興企業では、自社を規定するところから経営戦略がはじまるからである」(同書, p.103)という点については同感だが、自社(Company)の能力や事業機会は外部とのきわめて相対的な関係から決まるものだ。
  • アントレプレナーシップについて論じる際、どの程度の規模の事業に育てることをそもそものゴールとしているかという視点を欠くと、理論的にも実践的にも的外れになってしまう懸念があることは注意したい。しかし同時にこれは、「アントレプレナー」や「スタートアップ」をいかに定義するかということでもあり、なかなかに微妙な問題を孕んでいる(例えば、クラウドファンディングで集めた資金で「海の家」を作ろうとする事業は「スタートアップ」と呼んで適切か、など。おそらくは、何らかの「技術的な解決」をともなった事業でなければ、経済学的な意味合いでの「アントレプレナー」とは呼びにくいのだと思う)。

▼アントレプレナーシップに関する読書リスト

No.読了日評価書名著者名
12017/01/10★★★★☆『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』P.F.ドラッカー
22017/02/11★★★★☆『ソーシャル・エンタープライズ論』鈴木良隆 (編)
32017/03/04★★★☆☆『アントレプレナーシップ入門』忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎
42017/03/17★★★☆☆『アントレプレナーの戦略論』新藤晴臣

Written by shungoarai

3月 18th, 2017 at 11:40 am

[BookReview] 宮増浩『管理会計 実践入門』、石野雄一『道具としてのファイナンス』

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▼Week10-#01:宮増浩『管理会計 実践入門』(日本実業出版社, 2012年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/03/09

▼Week10-#02:石野雄一『道具としてのファイナンス』(日本実業出版社, 2005年)

感想:★★★★☆
読了:2017/03/13

2017年第10週は、ファイナンス関連で2冊の入門書を読みました。実務ではファイナンスもアカウンティングも司ってはいるものの、すべて必要に迫られて実務で覚えてきたものであるので、基礎から体系だって学んだことはなく、かといってブリーリー&マイヤーズによる有名すぎる教科書『コーポレート・ファイナンス』にいきなり手を付けるのも日和ってしまい、まずは簡単な書物で概要を押さえてから、と考えました。この2冊はともに日本実業出版社の書籍ですが、同社のファイナンス関連の書籍のラインナップには、数年前に読んだ磯崎哲也さんの『起業のファイナンス』もあったりして、それもあって信頼が置ける気がしました。

1冊目の宮増浩『管理会計 実践入門』は、会計実務に関する本というよりは、企業のCFOやCFOオフィスのスタッフがどのように事業の数字(書中の言葉では「非財務情報」)を扱っていくかに重点が置かれている印象です。

ゆえに、(特に)大企業での中計の策定に関わったり、そこで決めた数字をどうやって現実的な施策へと落とし込んでいくかということに悩んだりしたことのある多くの経営企画・経理部門スタッフには馴染みのあるテーマだと思います。「短期実施計画の最大の特徴は、経営管理プロセスのなかで、もっとも大きな財務・非財務情報間の非整合が生じ、それを整合させるために大きな資源をつぎ込まなければならないことです」(宮増『管理会計 実践入門』pp. 88-9)といった記述は、実施計画を作るために連日夜中から会議をして…という経験を持つ方にはとても納得できる部分かと思います。

この書籍の優れたところは会計実務に寄りかかっていないところで、むしろ経営管理を行う立場の者がいかに事業サイドの数字を理解し、そこに想像力を働かせるかという意識で書かれている点だという印象です。

2冊目の石野雄一『道具としてのファイナンス』は、米国のビジネススクールでファイナンスを学んだ銀行出身の財務戦略コンサルタントによるファイナンスの入門書。私自身の関心がコーポレート・ファイナンスにあったので本書の前の方の「証券投資に関する理論」(第2章)はそっくりそのまま読み飛ばしてしまいましたが、後段の「デリバティブの理論と実践的知識」(第6章)などもワラントや転換社債による資金調達などに触れられていて、要は投資の理論(供給サイドの理論)は需要サイドの理論の裏返しでもあるとするなら、読み飛ばすべきではなかったのかもしれません。

一読しただけではもちろん半分も理解していないとは思うものの、どういったところを考えるべきかという地図を示してくれるような本です。ザッと巻末まで目を通した上で、この本でせっかくExcelを用いた複雑な計算について解説されたばかりだから、何かしら練習問題を解くことで定着させたいなどと思っていると、やはり同じことを考えるもののようで、「問題集」が出ているようです。

Written by shungoarai

3月 14th, 2017 at 12:20 am