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Archive for 2月, 2017

[BookReview] 近藤隆雄『サービスマネジメント入門(第3版)』

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▼Week08-#01:近藤隆雄『サービス・マネジメント入門(第3版)』(生産性出版, 2007年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/02/26

第8週の課題図書は、先週の課題図書に引き続きサービス・マネジメント関連のテーマで、日本人研究者による入門書。先週のラブロック&ライトによる『サービス・マーケティング原理』がかなり広範な大著だったので、今週の本は内容的に重なる部分も多く、手早く読むことができた。

本書は、主に(著者による訳書もある)リチャード・ノーマンの研究実績を辿りながら、サービス・マネジメントについて概説している。ところどころ著者による主観的なエッセーのような箇所もあるものの、題名に「入門」と書かれているだけに入門書としての良さもあり、それは特に、研究史的な概観を示したり、欧米で発展した議論を日本に適用する場合の特殊性などを書いている箇所に現れている。

サービス・サイエンスは(略)最初は、中国のレノボ社へコンピュータの製造部門を売却したIBMの社内で、通常、製造業の場合には企業発展の要となる製品開発部門を、いまやサービス企業となったIBMではどのように構成したらよいか、という議論の中から出てきた概念であるようだ。」(近藤『サービス・マネジメント入門(第3版)』p.ii)

『サービス・マネジメント』の分野は、欧米においても経営の新しい研究領域である。いつ頃、この用語が生まれたかは定かではないが、一説には1983年からスカンジナビア航空が行った大規模な組織改革をキッカケとして北欧諸国で最初に広まったと言われている。ハーバード大学のビジネススクールで、『サービス・マネジメント』というコースが開講されたのも83年である。それ以前は、『サービス業務の管理』という名前のコースが設けられていた(なお、北米では『サービス・マネジメント』よりも『サービス・マーケティング』という言葉が使用されることが多い。アメリカでは、マーケティング研究からサービスの研究が派生したことと、企業の外部適応が主要な関心であることがその理由と考えられる。これに対し、ヨーロッパ諸国では『サービス・マネジメント』が主に使われている)。」(同書, p.vii-viii)

本書の本題に入る前の部分で、多くの日本人にとって素朴な疑問である「『サービス』とはどういう意味か」という問いについて、他の研究者の研究内容を借りつつ「態度的サービス」「精神的サービス」「犠牲的サービス」「機能的サービス」の4つに分類し、値引きや無料の意味を込めた「犠牲的サービス」を日本特有のものとしている。これについては、本書の後段でも、日本の「おもてなし」と「ホスピタリティ」の関係に触れられている。

この点は、こと「サービス」という企業活動が何を目的とし、顧客にいかなる価値を提供しているかについて意識的かどうかによるのかもしれない。

アメリカ産業界ではCS〔顧客満足〕活動がシッカリ定着し、現在でも顧客満足の調査を定期的に実施している企業は数多くあり、CS調査から生まれたデータを企業の効果性をはかる情報として活用している。わが国でCS活動が定着しなかった原因はいくつかあるが、最大の理由は、顧客満足度が企業全体のアウトプットだという認識が希薄で、特定の部門(例えば、最前線の部門)に責任を負わせてしまうという日本企業の体質にあると思われる。システム観の欠如である。その結果、顧客接点部門の従業員のお辞儀の仕方の訓練といった些末な対応しか生まなかったようだ。」(同書, p.174)

著者があるファミリーレストランの利用客に対して行ったSERVQUAL調査の結果も興味深い。

なお、五つのサービス品質を構成する要素の重要性を見てみると、アメリカの調査結果では、信頼性、反応性、確信性、共感性、物的要素の順であったが、この調査によると、共感性が信頼性に次いで二番目となっている。日本社会では、サービス取引の場面においても、個人的な配慮といった対人関係要因が大切だということの反映であろうか。」(同書, p.218)

以下、思ったこと。

  • 先週の図書と合わせて、サービス産業のビジネスにおける人的要因の重要性にあらためて気づかされる。生産性を高め、同時に顧客満足度を上げていくためにも、従業員をモチベートし、エンパワーし、彼らの満足度を上げていくことの重要性は非常に大きい。
    • 元経営者でサービス研究の先達である田辺英蔵氏は、その著書で次のように喝破している。『笑顔はタダだ、すなわち、コストをかけずにサービスを向上させようという心根は、経営者のケチかものぐさ、または理性の欠如であって、くり返すが、従業員の笑顔くらいコストのかかるものはない」(同書, p.179)

  • あらためて「自動車は『もの』であり、自動車が走行することが、自動車の『サービス』である」(同書, p.26)と書かれるとき、「サービス」という捉え方をすることでさまざまなビジネスの見方が変わるように感じた。たとえば、UBERやLyftのビジネスは一般には「シェアリングエコノミー」「ライドシェア」という言葉で言い表されているけれど、これは資源の調達面に目を向けた場合の視点によるもので、別の側面から見ると「Riding (Mobility) as a Service」とも呼ぶことができると思い当たった。
  • どのような価値(あるいは本書の枠組みでいうところの「サービス・コンセプト」)を顧客に届けるか、を考えていくことが当然ながら重要だ。私自身関わりのあるSaaS(Software as a Service)の領域でもこれは同様で、”as a Service” の部分はややもすると「パッケージソフトウェアという形ではない(クラウドで提供している)」という提供形式の部分にとらわれてしまいがちで、サービスの品質向上=提供するソフトウェア部分の品質向上という発想に陥ってしまうことも多いが、実際には、ソフトウェア云々を措いて「○○○ as a Service」を顧客への提供価値ベースで考える発想が必要なのかもしれない。

Written by shungoarai

2月 26th, 2017 at 3:00 pm

[BookReview] ラブロック&ライト『サービス・マーケティング原理』

2 comments

▼Week07-#01:C.ラブロック, L. ライト『サービス・マーケティング原理』(白桃書房)

感想:★★★★★
読了:2017/02/22

第7週目の課題図書は、400ページ近い大著だったので先週1週間では読みきれず少し期限をオーバー気味で読了したこちらの書籍。米 ハーバード・ビジネススクールやスイス IMD(国際経営開発研究所)などで教鞭をとってきたサービス・マーケティング分野に関する先駆者であるC. ラブロック博士による概説書。ふだん「サービス」を扱う企業のマネジメントに関わっている身からすると、どこに書かれた内容もそのひとつひとつが身に覚えのあるようなことで、ゆえに決して目新しいことがあるわけではない部分も多いのですが、「サービス」に関する多岐にわたったチェックポイントを網羅的に書いた本で、同じような立場にある方や、サービスを設計・企画するような方には必読書のように思います。

まず本書は、「サービス・マーケティング」とは何たるやというところから書き始められています。従来のマーケティング理論やビジネス理論は製造業の研究に基づいて発展してきたものであり、今日先進国・新興国を問わず経済における重要度が増しているサービス・セクター(いわゆる「サービス産業」の他にも、公共機関や非営利組織によって提供されるサービス財も含む)においてはそのまま適用されえないとして、「物財のマーケティング」とは異なる「サービスのマーケティング」の枠組みが必要であるとします。確かに、私自身も物事を考えたり整理する際に、従来のフレームワークや(そのもとになっている)「工場での生産/消費者へ向けた流通」といった比喩を用いたりするものの、うまく適用しにくいと感じることもあるので納得。

本書がテーマとする「サービスのマーケティング」は、狭義の「マーケティング」に留まりません。邦題は『サービス・マーケティング原理』となっていますが、原書のタイトルは “Principles of Service Marketing and Management” であることに意図が表れています。

本書はサービス・マーケティングだけに終始するものではない。各章を通して、他の2つの重要な職能――サービスのオペレーションと人的資源管理――についても言及がある。(略)マーケティング、オペレーション、人的資源管理における諸活動の統合が目標であって、この3つの分野のどこかで不都合があれば、結局は十分な収益が確保できない事態を招くことになるのである。(同書, pp.22-3)

物財とサービスとの差異のひとつとして「サービスにおいては顧客は生産プロセスに深く関与する」(たとえば、コインランドリーや銀行ATMの利用はユーザーの行動がなければ完結しないし、大学の授業や病院で診察をうけるときなどのように、サービスを提供する組織で働く従業員と協働の必要があったりする)という点が挙げられているように、通読するとわかるのは、「サービス」とはサービス単体で存立するものではなく、それを提供するプロセスやデリバリーの方法などすべてをひっくるめたものであって、よって、自ずと従業員や顧客のマネジメントも切り離して議論できないものであるということです。

さて、本書では議論を深め、あるいは具体化していく前に3つの有用な枠組みを提示します。

  • 統合的サービス・マネジメントの「8Ps」モデル:物材に対するマーケティングにおける4Pに代わるモデル(ただし、MECEではない)。
    1. プロダクト要素(product elements)
    2. 場所と時間(place and time)
    3. プロセス(process)
    4. 生産性とクォリティ(productivity and quality)
    5. 人的要素(people)
    6. プロモーションとエデュケーション(promotion and education)
    7. フィジカル・エビデンス(physical evidence)
    8. サービスの価格とその他のコスト(proce and other costs of service)
  • プロセスによるサービスの分類:プロセスの「対象」が人かモノか、有形の行為か無形の行為かの2軸によって4つのカテゴリーにサービスを大別する。(各カテゴリーに含まれるサービスもさまざまではあるが、カテゴリー内では類似の施策等も有効ではないかと示唆される)
    1. 人を対象とするサービス(人×有形):旅客輸送、ヘルスケア、宿泊 etc.
    2. 所有物を対象とするサービス(モノ×有形):貨物輸送、修理・保全、倉庫・保管 etc.
    3. メンタルな刺激を与えるサービス(人×無形):広告・PR、芸術・娯楽、放送、教育 etc.
    4. 情報を対象とするサービス(モノ×無形):会計、銀行、データ処理、保険 etc.
  • サービス組織と顧客コンタクトのレベルによるサービスの分類:
    • ハイ・コンタクト:サービス従業員とのエンカウンターが重視される
    • ロー・コンタクト:施設・設備とのエンカウンターが重視される

これらが第1部(第1〜4章)でまとめられた後、第2部では8Psモデルのうちオペレーショナルな性質が強い点を、第3部では狭義の「マーケティング」的な性格の強い点に触れて概説、最後の第5部ではより具体的な実務レベルのオペレーションを具体化し、前述の「マーケティング、オペレーション、人的資源管理」の3つの統合を図っています。第2部以降の本書の構成は以下のとおり。

内容
2:サービスによる価値の創造5. 生産性とクオリティサービスのクォリティについて顧客の期待や顧客満足との関係から整理し、またクォリティはサービス組織の生産性と不可分のものであることを見る

※キーワード:希望サービスと下限サービス、クォリティ・ギャップ、5つのクォリティの次元(信頼性、有形要素、反応性、確実性、共感性)、SERVQUAL尺度
6. リレーションシップ・マネジメントと顧客ロイヤルティの構築ターゲット・セグメンテーションを行い、顧客リレーションのすべてを保持したりせず、価値あるリレーションシップを形成・維持する

※キーワード:ジェイカスタマー、ロイヤルティ
7. 苦情への対処とサービス・リカバリー顧客が苦情を言う背景を理解し、どう向き合うかを示す

※キーワード:「真実の瞬間」、サービス・リカバリー
3:サービス・マーケティング戦略8. サービスのポジショニングとデザインサービス戦略とポジショニングの明確化(4Pにおける「製品」に相当)

※キーワード:ブランド
9. 補足的サービス要素による価値の付加成熟産業における競争優位は、コア・プロダクトに付加された補足的サービス要素のパフォーマンスを向上させることで追求される

※キーワード:フラワー・オブ・サービス
10. サービス・デリバリー・システムのデザインサービス・デリバリーの「いつ」「どこで」「どのように」についての広がりを見る

※キーワード:サービススケープ
11. サービスの価格とコスト何に対して支払っているか明確な物財との比較から、無形のサービス・パフォーマンスの料金について考える

※キーワード:サービスの非金銭的コスト、純価値
12. 顧客エデュケーションとサービスのプロモーションプロモーション活動における情報提供は顧客エデュケーションにも有用
4:マーケティングとオペレーション、人的資源管理の統合13. サービス・マーケターのための諸ツールサービス・デリバリーのフローチャートを見ながら、サービスプロセスを理解する

※キーワード:劇場のアナロジー、OTSUとISSO、
14. 需要と供給能力のマネジメント物財とサービスとの差異に「在庫がない」点があげられる。供給能力と需要を理解し、需要のマネジメントを行なう
15. 行列と予約のマネジメント需要が供給能力を超過する場合の需要保持の施策として行列や予約の活用を謳う

※キーワード:イールド・マネジメント
16. サービス従業員:リクルートからリテンションまでサービス組織では人的資源に投資する必要があり、採用・訓練・モチベーション・リテンションが重要であることを説く

※キーワード:エンパワーメント、イネーブルメント、失敗サイクル、劣悪サイクル、成功サイクル
(表:ラブロック 他『サービス・マネジメント原理』第2部以降の構成)

 

以下、気づいたり考えたこと。

  • 上述したように、本書に書かれている内容は「サービス」に提供している組織にいる者にとってはいずれも馴染み深く、課題の整理によい。一方で、「サービス」というもののなかで人的要素がいかに重要な位置を占めているかには気づかされた。
  • ゆえに、特にサービス組織の人的マネジメントについて扱った第16章は興味深い。こと「ハイ・コンタクト・サービス」においては従業員は「フィジカル・エビデンス」(無形のサービスにとって、サービスのクォリティを感知可能なものとするための代替物。視覚的な手がかり)であるということや、それゆえにどのような訓練を施すか、またそもそもどのような人物を採用するべきかなど、そのまま事業運営のヒントとなるような内容が書かれていて有用。
  • 本書を読みながら、自分自身も「サービス・エクスペリエンス」を気にしながら日常生活でサービスを利用していた。そうすることで、本書の説く「サービス・マーケティング」や「サービス・マネジメント」を提供者側・顧客側の両面から立体的に理解ができたように思う。たとえば、Rettyに書いたラーメン屋に関するこのレビューなどはその試み。ここではオペレーション(サービス・デリバリーや、行列のマネジメント)や、サービス組織の従業員の訓練やモラール、顧客同士のポジティブフィードバック(「プロダクトの一部としての他の人々の存在」, p.19)、それらの結果としての顧客ロイヤルティ… などのテーマを含めたつもりだ。

Written by shungoarai

2月 23rd, 2017 at 1:00 am

[BookReview] 鈴木良隆 他『ソーシャル・エンタプライズ論』

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▼Week06-#01:鈴木良隆(編)『ソーシャル・エンタプライズ論』(有斐閣, 2014年)

感想:★★★★☆
読了:2017/02/11

第6週目の課題図書は、先週の課題図書に引き続いて一橋の経営学修士コースの講義をもとにした書籍で、もともと「企業家と社会」という科目での講義をまとめたもの(リンク:著者による解題)。編者が先週の図書の著者と一緒ということもあり、後半のいくつかの章(特に第10章「日本における企業の出現と社会」での日本企業の労働力の確保の仕方と、それによる労使関係に関する議論の箇所)は内容的にも重なる部分もありました。

上記のリンク先で著者が自ら書いているように、もととなった科目「企業家と社会」が講義されているときに発生した東日本大震災後のことが本書の内容にかなり色濃く反映されています。震災の復興の火急性によって日本においてもソーシャルエンタープライズ(社会起業)への眼差しが変わったと見ているであろう本書では、グラミン銀行(Wikipedia)や『Big Issue』(Wikipedia)といった世界的に見たソーシャル・エンタープライズ一般の話も取り上げつつ、日本におけるソーシャル・エンタープライズというテーマでうまくまとめた本だと思いました。

以下、メモ。

  • 欧米各国でソーシャル・エンタープライズが発生してきた経緯と、その議論をそのまま適用しにくい日本の状況とを、本書を通読することで整理できる。第6章「ソーシャル・エンタプライズのフロンティア」では、米国では1960年代後半以降の公民権運動・反戦運動・消費者運動・環境運動などによって企業に社会的責任が求められたことや、1980年代以降のレーガン政権下でNPOセクターへの予算が削減されたこと、また英国では1990年代後半の労働党政権によってソーシャル・エンタープライズが政策に組み込まれてきたことが背景として説明される。また、第9章「ソーシャル・アントレプルナーの源流」ではさらに遡って、ロバート・オウエン(Wikipedia)やサン=シモン主義(Wikipedia)といったところにまで源流を探っている。一方、「欧州各国における協同組合の発展や、雇用の主体としてのソーシャル・エンタープライズを位置づける議論の前提条件を、日本社会は必ずしも共有していなかった」(本書, p.30)。
  • いくつかの事例を挙げながら、本書では日本でのソーシャル・アントレプレナーシップの萌芽を好意的に見つつも、そのハードルもまたいろいろと挙げられている。人材もしかり、起業環境もしかりである。
    • 日本型雇用習慣のなかで、労働人口の大半を企業社会が独占していたことが、専門的な人材や労働力のパブリック・セクターへの流入を阻害した。畢竟、担い手は(企業社会からの安定した家計に支えられた)主婦と、現役を退いた高齢者中心にならざるをえなかった。(同, p.31)

    • 社会的包摂と雇用の担い手として、パブリック・セクターとソーシャル・エンタプライズを活用し、創業を積極的に促進してきた欧州や韓国とは異なり、ソーシャル・エンタープライズのみならず起業全般が低迷しているのが日本の現状である。(同, p.37)

    • 日本のソーシャル・エンタプライズは確実に多様性を増し、新規の創業も相次いでいる。だが、そもそも営利企業の起業も容易でない日本社会のなかで、社会領域を対象とした新しい主体が着実に成長軌道に乗ることができるかは未知数と言わざるをえない。(同, p.61)

  • 本書が特徴的であるのは、「ソーシャル・エンタープライズ」論でありつつも、それを通じて「企業」論となっている点だ。それはもともとが「企業家と社会」という講義として企図されたものだからであろう。序章と終章ではシュムペーターを引用しながら、「企業〔エンタープライズ〕とは『新結合』〔イノベーション〕を遂行することであり、あるいはそれを遂行する組織体のことである」(同, p.12)と強調される。ゆえに、ソーシャル・エンタープライズとは「従来の課題を、その解決の仕方を変えること」(同, p.260)であり、それは極めて技術経営的なテーマであると言える。

▼アントレプレナーシップに関する読書リスト

No.読了日評価書名著者名
12017/01/10★★★★☆『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』P.F.ドラッカー
22017/02/11★★★★☆『ソーシャル・エンタープライズ論』鈴木良隆 (編)
32017/03/04★★★☆☆『アントレプレナーシップ入門』忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎
42017/03/17★★★☆☆『アントレプレナーの戦略論』新藤晴臣

Written by shungoarai

2月 12th, 2017 at 10:00 am

[BookReview] 鈴木良隆 他『MBAのための日本経営史』

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▼Week05-#01:鈴木良隆・橋野知子・白鳥圭志『MBAのための日本経営史』(有斐閣, 2007年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/02/05

第5週目の課題図書は、一橋のかつての経営学修士コースで講義されていた「日本経営史」の討議資料をまとめたという本書。タイトルとは裏腹に、ビジネススクール的な内容というよりは、しっかりと研究書的で読むのには結構時間を要しました。

ことさら「日本経営史」と銘打っていたり、そもそも一橋のコースでの講義ということもあってか、日本の(どちらかというと)古くからの企業に勤めている方々が知っておくと良いかもしれない戦前から2000年代初頭(本書は2007年刊行)までの日本の産業史と、そこにおける「大企業」と「中小企業」というプレイヤーについてさまざまな角度から扱っています。通史的な内容もあれば、仮説を立てて検証をしていくという章もあります。

具体的なケースや他国との比較、通史的な内容を扱った各章については比較的読みやすかったものの、統計的な仮説検証や少し深掘りされた金融制度史に関する章は読みでがありました。難解な部分はとりあえず各章の章末のサマリーでキャッチアップはなんとかキャッチアップはしたものの、何度か読み返さないと理解できていない気がする。

以下、まとめや考えたこと。

  • 「大企業」と「中小企業」について一冊を通じて論じているが、本書ではそこに単純なヒエラルキーを見いだすのではなく、エコシステムのようなものを想定している。すなわち、「大企業と比較して規模の経済性を追求しない分野での分業を担い、経済環境の変化に耐える強靭性を備えていた」(本書, p.270)ことで存続しえた中小企業や金融機関などの「サブシステム(中略)さらには国の政策によって維持されたひとつの『体制』」(同, p.290)によって大企業の安定的地位は支えられていたと見る。「それは『市場経済』とは別の、一国的な経済の仕組みであった」(同, p.290)とあるように、本書中でも英独などの国々との比較をしながら、大企業の安定的な状態(本書では『大企業体制』と呼称)は普遍的ではないと論じている。
  • 「大企業体制」の特質として、「第一に、日本では、同一産業中の大企業が、規模において著しく異なってはいない。同じような規模の企業がいくつも併存している」(同, p.141)、「第二に、その製品構成、技術、市場においても、日本の大企業は同一産業内において互いに類似していた」(同, p.142)という二点を挙げている。著者は終章でこうした状況は終焉を迎えていると言うが、このややもすると同質的な戦略を取ってしまいがちなことはいまだに多いのではないかという気もする。日本企業のDNAレベルにそうした性質があるとすれば、それに対しては意識的である必要がある。
  • 本書では日本企業における雇用・労使についても詳述されている。それらは日本企業の「競争優位」の考え方とも表裏一体のように思われる。日本の産業の国際競争力については1章を割いて詳述されるが、「1970年代初頭から1980年代半ばにかけて一群の産業の分野の盛衰は(中略)労働コストの優位から価値連鎖におけるコスト優位へというコストの源泉の変化を示しているにすぎない」(p.258)という看破は秀逸で、この「コストによる差別化」以上に付加価値をつけていくことは生産性の観点からも、また昨今の「働き方改革」の観点からも重要。

Written by shungoarai

2月 6th, 2017 at 1:00 am