20世紀を代表する独裁者3人 ――ヒトラー・スターリン・毛沢東―― について、いかに競争・抗争を勝ち抜いて権力を奪取したのかという視点から描いた著作。現実離れした感のある内容をアクチュアルに切り取った作品だと思います。「はじめに」に書かれた以下の部分を読めば、それがアクチュアルな問題であることがわかります。
三人は叩き上げという共通点はあるが、組織内のスタートの位置はそれぞれである。毛沢東は創立メンバーのひとりだったが、失脚し左遷されたながらも、復権する。ヒトラーは創立メンバーではないが、まだ組織が小さい頃に加わり、出世していった。スターリンは巨大組織の末端から、出世していった。
彼らは二十世紀の著名な革命家・政治家であるが、三人とも、現代でいえばベンチャー企業の創業期からのメンバーだ。いまのベンチャー企業のほとんどはIT革命という技術革新を背景に生まれた。三人はいずれも皇帝の支配する国に生まれ、その帝政を倒して民主主義、さらには社会主義へ変革する政治革命の時代に生きた。その革命期に、少人数で始めた組織が巨大化していったのである。
したがって、本書は三人の権力者の出世物語でもあるが、二十世紀史の一断面であり三つのベンチャー企業の成長物語でもある。
本書では、
スターリンの基本戦略
- 組織のために自分の手を汚す
- 人の弱みを握り利用する
- 情報を集める
- 誰も信用しない
といった具合に、扱う3人の生涯(トップに上り詰めるまでの前半生)を概観しながら、様々な局面での振る舞いを「出世」という切り口で評しています。
ただ、これを単に「出世のためのアプローチ」としてのみ読むのはもったいない気がします。この3人は権力を得るために人を利用し、組織のプロセスを利用していくわけで、裏返せば、人の感情や、組織のプロセスが陥りやすい罠のチェックリストとしての読み方も可能でしょう。
プロセスを熟知し、それを逆手にとって権力を手中にするというテーマについては、より緻密な調査に基づいて書かれた『策謀家チェイニー 副大統領が創った「ブッシュのアメリカ」』も良書。こちらはジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務めたディック・チェイニーを扱った書籍ですが、刊行直後にチェイニー自身もしっかり読み込み、講演会で「同意しないくだりもいくつかあるが、著者は『ちゃんと調べている』と評価した」(訳者あとがき)という労作。