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[BookReview] カーツワイル『シンギュラリティは近い[エッセンス版]』

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▼Week02-#02:R. カーツワイル『シンギュラリティは近い – 人類が生命を超越するとき[エッセンス版]』(NHK出版)

感想:★★★★☆
読了:2017/01/15

第2週目の2冊目は、未来学者レイ・カーツワイルの『シンギュラリティは近い』。2005年に出版された “The singularity is near”(邦訳『ポスト・ヒューマン誕生』, 2006年)のエッセンス版。一冊を通して扱う技術的特異点(シンギュラリティ)とは、「われわれの生物としての思考と存在が、みずからの作りだしたテクノロジーと融合する臨界点であり、その世界は、依然として人間的ではあっても生物としての基盤を超越している」(『シンギュラリティは近い』p.15)と説明されています。コンピュータの計算能力の飛躍的な向上がさらなる技術革新の速度を速めていき、脳と機械が接続されたり、ナノボットテクノロジーによって人間の身体・脳の能力が強化(enhanced)された結果としてシンギュラリティ=「人間の能力が根底から覆り変容するとき」(同, p.107)へ2045年頃に到達すると予測している本です。

10年ほど前に原書『ポスト・ヒューマン誕生』(邦訳)を読んでいた際も難解に感じていた箇所――たとえば、本書の第三章にあるような物質のコンピューティング能力のくだり(「岩はどれくらい賢いか」p.97 等)や、第四章の人間の脳の構造のリバースエンジニアリングに関する細部、終盤近く第六章での「シンギュラリティ」到来後の哲学的議論など――は、10年経ったいまでも難解で、3割程度も理解できたかどうかわかりませんが、本書は「進歩は指数関数的に成長する」という原則に沿って書かれているので、そのことを念頭に置いて各分野でどのようなことが起きるかを予測した第五章を読むことで、だいたいのアウトラインは掴めます。

以下の点について学びや気付きがありました。

  1. 技術進歩のスピード予測についてわれわれは保守的になりがち。これはシンギュラリティについてばかりでなく、より身近な領域(仕事で触れる技術など)でも同様であって気をつける必要がある。啓蒙時代のヨーロッパの知識人間で巻き起こった「新旧論争」でよく使われた表現のとおり、われわれは「巨人の肩の上」(Wikipedia)にいるわけで、つまるところ現在の技術革新のスピードは、これまでの蓄積を利用できるために、過去の革新のスピードよりも速いはずなのである。
    • 人はたいてい、今の進歩率がそのまま未来まで続くと直感的に思い込む。長年生きてきて、変化のペースが時代とともに速くなることを身をもって経験している人でさえ、うっかりと直感に頼り、つい最近に経験した変化と同じ程度のペースでこれからも変化が続くと感じてしまう。なぜなら、数学的に考えると、指数関数曲線は、ほんの短い期間だけをとってみれば、まるで直線のように見えるからだ。そのため、識者でさえも、未来を予測するとなると、概して、現在の変化のペースをもとにして、次の10年や100年の見通しを立ててしまう」(p.18)
  2. カーツワイルはシンギュラリティが引き起こしうるデフレや、人間の「強化」について楽観的であるようだが、特にシンギュラリティの初期にあってはそのコストの高さから、強化ができる人・できない人の差が生まれるように考える。大きな格差が生まれることについて覚悟する必要があるように思う。
  3. 英オックスフォード大 マイケル A. オズボーン准教授の2013年の論文「雇用の未来 – コンピューター化によって仕事は失われるのか」(The future of employment: How susceptible are jobs to computerization?, PDF)を発端にして、各種メディアで「あと10年でなくなる仕事」が話題になった結果、さまざまな専門職において「単純作業はAIに任せて、より付加価値の高い業務(コンサルティングなど)にリソースを割いて生産性を高めよう」式の議論がなされているが、これは技術の進展のスピードを甘く見積もっているように思う(上記1で挙げた「直線」的な変化として捉える認識に寄りすぎている)。おそらくは、その付加価値が高く、クリエイティブな業務もAIに代替されていこうというなかで、いかにAIをうまく業務に取り込んでいき、サバイブしていくかを考えていく必要がある。


Written by shungoarai

1月 15th, 2017 at 9:31 pm