Think Webby

Thinking around from the webby point of view

Archive for the ‘ServiceMarketing’ tag

[BookReview] スタウス 他『サービス・サイエンスの展開』

leave a comment

▼Week08-#01:ベルンド・スタウス 他編『サービス・サイエンスの展開 – その基礎、課題から将来展望まで』(生産性出版)

感想:★★★☆☆
読了:2017/03/03

第9週の課題図書は、先々週先週の課題図書に引き続きサービス産業に関するテーマの書物。ゼロ年代前半にサービス・イノベーションを体系化することが叫ばれ、IBMがSSME(Service Science, Management, Engineering)というサービス・イノベーションへのパースペクティブを主唱するなか、2006年4月に開催されたドイツ初のサービス・サイエンスに関する国際会議での発表をまとめたものが本書。

学会発表ということもあってかきちんとまとまった論文というよりは論点提示に留まって議論が端折られていたり、あるいは生煮えの部分なども多いと感じましたが、そういった点も含め、新たな学問分野の立ち上がりに際して研究者が試行錯誤しているような息吹が伝わってくるような一冊です。

序章における最も簡潔な定義によれば「サービス・サイエンスは新しい科学的な概念として定義され、その目的は学会とサービス企業との集中的な協力関係のなかで、学際的なアプローチを適用することによって、サービス経済の複雑な諸問題の解決を目指すものである」(スタウス 他『サービス・サイエンスの展開』p.5)。また、別の箇所では「サービス・サイエンティストが行うべきことは、サービス・システムを研究し、サービス・システムを改善し、そして、サービス・システムを拡大することである」(ジム・スボラー「サービス・サイエンス、マネジメント、エンジニアリング(SSME)と他の学問領域との関連」同書, p.49)とし、「サービス・サイエンス」に「人々やテクノロジー、他の内部および外部サービス・システム、および(言語や法のような)共有情報からなる価値の共同生産構造」(同, p.47)という定義を与えています。

こういった考え方に基づいて、従来の学問との距離感覚(重複や差異)や企業と学問の府とがいかに協働しうるかといった点をさまざまな角度から語られています。

以下、メモ。

  • 先週・先々週に読んだサービスに関する概説書のなかでさまざまに触れられていた「サービスと物財との差異」については一通りの認識を持ちながら読み進めていったなかで、以下のような記述にぶつかって、学究的な姿勢の厳密さにハッとする。「行為者と参加者を巻き込むこのプロセスを取り上げることは、サービス・サイエンスにとって、明確で関連性のある焦点をもつことになる。加えて、革新的で複雑な問題を取り扱うには学際的な分析を必要とするであろう。したがって、この見方は将来性のある選択となる。ただ、この見方は経済的な変化を取り上げているのであって、サービスそのものを対象としているのではないことを忘れてはならない」(ベルンド・スタウス「サービス研究の国際的現状、発展、およびサービス・サイエンスが登場した意義」同書, p.91)
  • サービス産業の経済に占めるポーションが大きくなり、なおかつ従来型の製造業の企業内においても事業におけるサービス領域が大きくなっているという現状から、サービスにおけるイノベーションを体系的に創出することに対する切迫感が全体を通じてある。国単位での産業振興ということを考える時、産学や産学官での協働が重要であるが、一方、これらの協働を奏功させるためには各プレイヤーがそれぞれそこに価値を感じ、メリットを享受できるような長期的なパートナーシップが必要である。本書では、新たな学問領域の扱う範囲やその背景となる問題認識のみならず、いかに成果のある研究を行いうるかという方法論についても議論されている。
  • S-Dロジック(サービス・ドミナントロジック)についてはちゃんと勉強しておきたいと思った。

Written by shungoarai

3月 4th, 2017 at 10:45 am

[BookReview] 近藤隆雄『サービスマネジメント入門(第3版)』

one comment

▼Week08-#01:近藤隆雄『サービス・マネジメント入門(第3版)』(生産性出版, 2007年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/02/26

第8週の課題図書は、先週の課題図書に引き続きサービス・マネジメント関連のテーマで、日本人研究者による入門書。先週のラブロック&ライトによる『サービス・マーケティング原理』がかなり広範な大著だったので、今週の本は内容的に重なる部分も多く、手早く読むことができた。

本書は、主に(著者による訳書もある)リチャード・ノーマンの研究実績を辿りながら、サービス・マネジメントについて概説している。ところどころ著者による主観的なエッセーのような箇所もあるものの、題名に「入門」と書かれているだけに入門書としての良さもあり、それは特に、研究史的な概観を示したり、欧米で発展した議論を日本に適用する場合の特殊性などを書いている箇所に現れている。

サービス・サイエンスは(略)最初は、中国のレノボ社へコンピュータの製造部門を売却したIBMの社内で、通常、製造業の場合には企業発展の要となる製品開発部門を、いまやサービス企業となったIBMではどのように構成したらよいか、という議論の中から出てきた概念であるようだ。」(近藤『サービス・マネジメント入門(第3版)』p.ii)

『サービス・マネジメント』の分野は、欧米においても経営の新しい研究領域である。いつ頃、この用語が生まれたかは定かではないが、一説には1983年からスカンジナビア航空が行った大規模な組織改革をキッカケとして北欧諸国で最初に広まったと言われている。ハーバード大学のビジネススクールで、『サービス・マネジメント』というコースが開講されたのも83年である。それ以前は、『サービス業務の管理』という名前のコースが設けられていた(なお、北米では『サービス・マネジメント』よりも『サービス・マーケティング』という言葉が使用されることが多い。アメリカでは、マーケティング研究からサービスの研究が派生したことと、企業の外部適応が主要な関心であることがその理由と考えられる。これに対し、ヨーロッパ諸国では『サービス・マネジメント』が主に使われている)。」(同書, p.vii-viii)

本書の本題に入る前の部分で、多くの日本人にとって素朴な疑問である「『サービス』とはどういう意味か」という問いについて、他の研究者の研究内容を借りつつ「態度的サービス」「精神的サービス」「犠牲的サービス」「機能的サービス」の4つに分類し、値引きや無料の意味を込めた「犠牲的サービス」を日本特有のものとしている。これについては、本書の後段でも、日本の「おもてなし」と「ホスピタリティ」の関係に触れられている。

この点は、こと「サービス」という企業活動が何を目的とし、顧客にいかなる価値を提供しているかについて意識的かどうかによるのかもしれない。

アメリカ産業界ではCS〔顧客満足〕活動がシッカリ定着し、現在でも顧客満足の調査を定期的に実施している企業は数多くあり、CS調査から生まれたデータを企業の効果性をはかる情報として活用している。わが国でCS活動が定着しなかった原因はいくつかあるが、最大の理由は、顧客満足度が企業全体のアウトプットだという認識が希薄で、特定の部門(例えば、最前線の部門)に責任を負わせてしまうという日本企業の体質にあると思われる。システム観の欠如である。その結果、顧客接点部門の従業員のお辞儀の仕方の訓練といった些末な対応しか生まなかったようだ。」(同書, p.174)

著者があるファミリーレストランの利用客に対して行ったSERVQUAL調査の結果も興味深い。

なお、五つのサービス品質を構成する要素の重要性を見てみると、アメリカの調査結果では、信頼性、反応性、確信性、共感性、物的要素の順であったが、この調査によると、共感性が信頼性に次いで二番目となっている。日本社会では、サービス取引の場面においても、個人的な配慮といった対人関係要因が大切だということの反映であろうか。」(同書, p.218)

以下、思ったこと。

  • 先週の図書と合わせて、サービス産業のビジネスにおける人的要因の重要性にあらためて気づかされる。生産性を高め、同時に顧客満足度を上げていくためにも、従業員をモチベートし、エンパワーし、彼らの満足度を上げていくことの重要性は非常に大きい。
    • 元経営者でサービス研究の先達である田辺英蔵氏は、その著書で次のように喝破している。『笑顔はタダだ、すなわち、コストをかけずにサービスを向上させようという心根は、経営者のケチかものぐさ、または理性の欠如であって、くり返すが、従業員の笑顔くらいコストのかかるものはない」(同書, p.179)

  • あらためて「自動車は『もの』であり、自動車が走行することが、自動車の『サービス』である」(同書, p.26)と書かれるとき、「サービス」という捉え方をすることでさまざまなビジネスの見方が変わるように感じた。たとえば、UBERやLyftのビジネスは一般には「シェアリングエコノミー」「ライドシェア」という言葉で言い表されているけれど、これは資源の調達面に目を向けた場合の視点によるもので、別の側面から見ると「Riding (Mobility) as a Service」とも呼ぶことができると思い当たった。
  • どのような価値(あるいは本書の枠組みでいうところの「サービス・コンセプト」)を顧客に届けるか、を考えていくことが当然ながら重要だ。私自身関わりのあるSaaS(Software as a Service)の領域でもこれは同様で、”as a Service” の部分はややもすると「パッケージソフトウェアという形ではない(クラウドで提供している)」という提供形式の部分にとらわれてしまいがちで、サービスの品質向上=提供するソフトウェア部分の品質向上という発想に陥ってしまうことも多いが、実際には、ソフトウェア云々を措いて「○○○ as a Service」を顧客への提供価値ベースで考える発想が必要なのかもしれない。

Written by shungoarai

2月 26th, 2017 at 3:00 pm

[BookReview] ラブロック&ライト『サービス・マーケティング原理』

2 comments

▼Week07-#01:C.ラブロック, L. ライト『サービス・マーケティング原理』(白桃書房)

感想:★★★★★
読了:2017/02/22

第7週目の課題図書は、400ページ近い大著だったので先週1週間では読みきれず少し期限をオーバー気味で読了したこちらの書籍。米 ハーバード・ビジネススクールやスイス IMD(国際経営開発研究所)などで教鞭をとってきたサービス・マーケティング分野に関する先駆者であるC. ラブロック博士による概説書。ふだん「サービス」を扱う企業のマネジメントに関わっている身からすると、どこに書かれた内容もそのひとつひとつが身に覚えのあるようなことで、ゆえに決して目新しいことがあるわけではない部分も多いのですが、「サービス」に関する多岐にわたったチェックポイントを網羅的に書いた本で、同じような立場にある方や、サービスを設計・企画するような方には必読書のように思います。

まず本書は、「サービス・マーケティング」とは何たるやというところから書き始められています。従来のマーケティング理論やビジネス理論は製造業の研究に基づいて発展してきたものであり、今日先進国・新興国を問わず経済における重要度が増しているサービス・セクター(いわゆる「サービス産業」の他にも、公共機関や非営利組織によって提供されるサービス財も含む)においてはそのまま適用されえないとして、「物財のマーケティング」とは異なる「サービスのマーケティング」の枠組みが必要であるとします。確かに、私自身も物事を考えたり整理する際に、従来のフレームワークや(そのもとになっている)「工場での生産/消費者へ向けた流通」といった比喩を用いたりするものの、うまく適用しにくいと感じることもあるので納得。

本書がテーマとする「サービスのマーケティング」は、狭義の「マーケティング」に留まりません。邦題は『サービス・マーケティング原理』となっていますが、原書のタイトルは “Principles of Service Marketing and Management” であることに意図が表れています。

本書はサービス・マーケティングだけに終始するものではない。各章を通して、他の2つの重要な職能――サービスのオペレーションと人的資源管理――についても言及がある。(略)マーケティング、オペレーション、人的資源管理における諸活動の統合が目標であって、この3つの分野のどこかで不都合があれば、結局は十分な収益が確保できない事態を招くことになるのである。(同書, pp.22-3)

物財とサービスとの差異のひとつとして「サービスにおいては顧客は生産プロセスに深く関与する」(たとえば、コインランドリーや銀行ATMの利用はユーザーの行動がなければ完結しないし、大学の授業や病院で診察をうけるときなどのように、サービスを提供する組織で働く従業員と協働の必要があったりする)という点が挙げられているように、通読するとわかるのは、「サービス」とはサービス単体で存立するものではなく、それを提供するプロセスやデリバリーの方法などすべてをひっくるめたものであって、よって、自ずと従業員や顧客のマネジメントも切り離して議論できないものであるということです。

さて、本書では議論を深め、あるいは具体化していく前に3つの有用な枠組みを提示します。

  • 統合的サービス・マネジメントの「8Ps」モデル:物材に対するマーケティングにおける4Pに代わるモデル(ただし、MECEではない)。
    1. プロダクト要素(product elements)
    2. 場所と時間(place and time)
    3. プロセス(process)
    4. 生産性とクォリティ(productivity and quality)
    5. 人的要素(people)
    6. プロモーションとエデュケーション(promotion and education)
    7. フィジカル・エビデンス(physical evidence)
    8. サービスの価格とその他のコスト(proce and other costs of service)
  • プロセスによるサービスの分類:プロセスの「対象」が人かモノか、有形の行為か無形の行為かの2軸によって4つのカテゴリーにサービスを大別する。(各カテゴリーに含まれるサービスもさまざまではあるが、カテゴリー内では類似の施策等も有効ではないかと示唆される)
    1. 人を対象とするサービス(人×有形):旅客輸送、ヘルスケア、宿泊 etc.
    2. 所有物を対象とするサービス(モノ×有形):貨物輸送、修理・保全、倉庫・保管 etc.
    3. メンタルな刺激を与えるサービス(人×無形):広告・PR、芸術・娯楽、放送、教育 etc.
    4. 情報を対象とするサービス(モノ×無形):会計、銀行、データ処理、保険 etc.
  • サービス組織と顧客コンタクトのレベルによるサービスの分類:
    • ハイ・コンタクト:サービス従業員とのエンカウンターが重視される
    • ロー・コンタクト:施設・設備とのエンカウンターが重視される

これらが第1部(第1〜4章)でまとめられた後、第2部では8Psモデルのうちオペレーショナルな性質が強い点を、第3部では狭義の「マーケティング」的な性格の強い点に触れて概説、最後の第5部ではより具体的な実務レベルのオペレーションを具体化し、前述の「マーケティング、オペレーション、人的資源管理」の3つの統合を図っています。第2部以降の本書の構成は以下のとおり。

内容
2:サービスによる価値の創造5. 生産性とクオリティサービスのクォリティについて顧客の期待や顧客満足との関係から整理し、またクォリティはサービス組織の生産性と不可分のものであることを見る

※キーワード:希望サービスと下限サービス、クォリティ・ギャップ、5つのクォリティの次元(信頼性、有形要素、反応性、確実性、共感性)、SERVQUAL尺度
6. リレーションシップ・マネジメントと顧客ロイヤルティの構築ターゲット・セグメンテーションを行い、顧客リレーションのすべてを保持したりせず、価値あるリレーションシップを形成・維持する

※キーワード:ジェイカスタマー、ロイヤルティ
7. 苦情への対処とサービス・リカバリー顧客が苦情を言う背景を理解し、どう向き合うかを示す

※キーワード:「真実の瞬間」、サービス・リカバリー
3:サービス・マーケティング戦略8. サービスのポジショニングとデザインサービス戦略とポジショニングの明確化(4Pにおける「製品」に相当)

※キーワード:ブランド
9. 補足的サービス要素による価値の付加成熟産業における競争優位は、コア・プロダクトに付加された補足的サービス要素のパフォーマンスを向上させることで追求される

※キーワード:フラワー・オブ・サービス
10. サービス・デリバリー・システムのデザインサービス・デリバリーの「いつ」「どこで」「どのように」についての広がりを見る

※キーワード:サービススケープ
11. サービスの価格とコスト何に対して支払っているか明確な物財との比較から、無形のサービス・パフォーマンスの料金について考える

※キーワード:サービスの非金銭的コスト、純価値
12. 顧客エデュケーションとサービスのプロモーションプロモーション活動における情報提供は顧客エデュケーションにも有用
4:マーケティングとオペレーション、人的資源管理の統合13. サービス・マーケターのための諸ツールサービス・デリバリーのフローチャートを見ながら、サービスプロセスを理解する

※キーワード:劇場のアナロジー、OTSUとISSO、
14. 需要と供給能力のマネジメント物財とサービスとの差異に「在庫がない」点があげられる。供給能力と需要を理解し、需要のマネジメントを行なう
15. 行列と予約のマネジメント需要が供給能力を超過する場合の需要保持の施策として行列や予約の活用を謳う

※キーワード:イールド・マネジメント
16. サービス従業員:リクルートからリテンションまでサービス組織では人的資源に投資する必要があり、採用・訓練・モチベーション・リテンションが重要であることを説く

※キーワード:エンパワーメント、イネーブルメント、失敗サイクル、劣悪サイクル、成功サイクル
(表:ラブロック 他『サービス・マネジメント原理』第2部以降の構成)

 

以下、気づいたり考えたこと。

  • 上述したように、本書に書かれている内容は「サービス」に提供している組織にいる者にとってはいずれも馴染み深く、課題の整理によい。一方で、「サービス」というもののなかで人的要素がいかに重要な位置を占めているかには気づかされた。
  • ゆえに、特にサービス組織の人的マネジメントについて扱った第16章は興味深い。こと「ハイ・コンタクト・サービス」においては従業員は「フィジカル・エビデンス」(無形のサービスにとって、サービスのクォリティを感知可能なものとするための代替物。視覚的な手がかり)であるということや、それゆえにどのような訓練を施すか、またそもそもどのような人物を採用するべきかなど、そのまま事業運営のヒントとなるような内容が書かれていて有用。
  • 本書を読みながら、自分自身も「サービス・エクスペリエンス」を気にしながら日常生活でサービスを利用していた。そうすることで、本書の説く「サービス・マーケティング」や「サービス・マネジメント」を提供者側・顧客側の両面から立体的に理解ができたように思う。たとえば、Rettyに書いたラーメン屋に関するこのレビューなどはその試み。ここではオペレーション(サービス・デリバリーや、行列のマネジメント)や、サービス組織の従業員の訓練やモラール、顧客同士のポジティブフィードバック(「プロダクトの一部としての他の人々の存在」, p.19)、それらの結果としての顧客ロイヤルティ… などのテーマを含めたつもりだ。

Written by shungoarai

2月 23rd, 2017 at 1:00 am