▼Week07-#01:C.ラブロック, L. ライト『サービス・マーケティング原理』(白桃書房)
感想:★★★★★
読了:2017/02/22
第7週目の課題図書は、400ページ近い大著だったので先週1週間では読みきれず少し期限をオーバー気味で読了したこちらの書籍。米 ハーバード・ビジネススクールやスイス IMD(国際経営開発研究所)などで教鞭をとってきたサービス・マーケティング分野に関する先駆者であるC. ラブロック博士による概説書。ふだん「サービス」を扱う企業のマネジメントに関わっている身からすると、どこに書かれた内容もそのひとつひとつが身に覚えのあるようなことで、ゆえに決して目新しいことがあるわけではない部分も多いのですが、「サービス」に関する多岐にわたったチェックポイントを網羅的に書いた本で、同じような立場にある方や、サービスを設計・企画するような方には必読書のように思います。
まず本書は、「サービス・マーケティング」とは何たるやというところから書き始められています。従来のマーケティング理論やビジネス理論は製造業の研究に基づいて発展してきたものであり、今日先進国・新興国を問わず経済における重要度が増しているサービス・セクター(いわゆる「サービス産業」の他にも、公共機関や非営利組織によって提供されるサービス財も含む)においてはそのまま適用されえないとして、「物財のマーケティング」とは異なる「サービスのマーケティング」の枠組みが必要であるとします。確かに、私自身も物事を考えたり整理する際に、従来のフレームワークや(そのもとになっている)「工場での生産/消費者へ向けた流通」といった比喩を用いたりするものの、うまく適用しにくいと感じることもあるので納得。
本書がテーマとする「サービスのマーケティング」は、狭義の「マーケティング」に留まりません。邦題は『サービス・マーケティング原理』となっていますが、原書のタイトルは “Principles of Service Marketing and Management” であることに意図が表れています。
本書はサービス・マーケティングだけに終始するものではない。各章を通して、他の2つの重要な職能――サービスのオペレーションと人的資源管理――についても言及がある。(略)マーケティング、オペレーション、人的資源管理における諸活動の統合が目標であって、この3つの分野のどこかで不都合があれば、結局は十分な収益が確保できない事態を招くことになるのである。(同書, pp.22-3)
物財とサービスとの差異のひとつとして「サービスにおいては顧客は生産プロセスに深く関与する」(たとえば、コインランドリーや銀行ATMの利用はユーザーの行動がなければ完結しないし、大学の授業や病院で診察をうけるときなどのように、サービスを提供する組織で働く従業員と協働の必要があったりする)という点が挙げられているように、通読するとわかるのは、「サービス」とはサービス単体で存立するものではなく、それを提供するプロセスやデリバリーの方法などすべてをひっくるめたものであって、よって、自ずと従業員や顧客のマネジメントも切り離して議論できないものであるということです。
さて、本書では議論を深め、あるいは具体化していく前に3つの有用な枠組みを提示します。
- 統合的サービス・マネジメントの「8Ps」モデル:物材に対するマーケティングにおける4Pに代わるモデル(ただし、MECEではない)。
- プロダクト要素(product elements)
- 場所と時間(place and time)
- プロセス(process)
- 生産性とクォリティ(productivity and quality)
- 人的要素(people)
- プロモーションとエデュケーション(promotion and education)
- フィジカル・エビデンス(physical evidence)
- サービスの価格とその他のコスト(proce and other costs of service)
- プロセスによるサービスの分類:プロセスの「対象」が人かモノか、有形の行為か無形の行為かの2軸によって4つのカテゴリーにサービスを大別する。(各カテゴリーに含まれるサービスもさまざまではあるが、カテゴリー内では類似の施策等も有効ではないかと示唆される)
- 人を対象とするサービス(人×有形):旅客輸送、ヘルスケア、宿泊 etc.
- 所有物を対象とするサービス(モノ×有形):貨物輸送、修理・保全、倉庫・保管 etc.
- メンタルな刺激を与えるサービス(人×無形):広告・PR、芸術・娯楽、放送、教育 etc.
- 情報を対象とするサービス(モノ×無形):会計、銀行、データ処理、保険 etc.
- サービス組織と顧客コンタクトのレベルによるサービスの分類:
- ハイ・コンタクト:サービス従業員とのエンカウンターが重視される
- ロー・コンタクト:施設・設備とのエンカウンターが重視される
これらが第1部(第1〜4章)でまとめられた後、第2部では8Psモデルのうちオペレーショナルな性質が強い点を、第3部では狭義の「マーケティング」的な性格の強い点に触れて概説、最後の第5部ではより具体的な実務レベルのオペレーションを具体化し、前述の「マーケティング、オペレーション、人的資源管理」の3つの統合を図っています。第2部以降の本書の構成は以下のとおり。
部 | 章 | 内容 |
---|---|---|
2:サービスによる価値の創造 | 5. 生産性とクオリティ | サービスのクォリティについて顧客の期待や顧客満足との関係から整理し、またクォリティはサービス組織の生産性と不可分のものであることを見る ※キーワード:希望サービスと下限サービス、クォリティ・ギャップ、5つのクォリティの次元(信頼性、有形要素、反応性、確実性、共感性)、SERVQUAL尺度 |
6. リレーションシップ・マネジメントと顧客ロイヤルティの構築 | ターゲット・セグメンテーションを行い、顧客リレーションのすべてを保持したりせず、価値あるリレーションシップを形成・維持する ※キーワード:ジェイカスタマー、ロイヤルティ |
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7. 苦情への対処とサービス・リカバリー | 顧客が苦情を言う背景を理解し、どう向き合うかを示す ※キーワード:「真実の瞬間」、サービス・リカバリー |
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3:サービス・マーケティング戦略 | 8. サービスのポジショニングとデザイン | サービス戦略とポジショニングの明確化(4Pにおける「製品」に相当) ※キーワード:ブランド |
9. 補足的サービス要素による価値の付加 | 成熟産業における競争優位は、コア・プロダクトに付加された補足的サービス要素のパフォーマンスを向上させることで追求される ※キーワード:フラワー・オブ・サービス |
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10. サービス・デリバリー・システムのデザイン | サービス・デリバリーの「いつ」「どこで」「どのように」についての広がりを見る ※キーワード:サービススケープ |
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11. サービスの価格とコスト | 何に対して支払っているか明確な物財との比較から、無形のサービス・パフォーマンスの料金について考える ※キーワード:サービスの非金銭的コスト、純価値 |
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12. 顧客エデュケーションとサービスのプロモーション | プロモーション活動における情報提供は顧客エデュケーションにも有用 | |
4:マーケティングとオペレーション、人的資源管理の統合 | 13. サービス・マーケターのための諸ツール | サービス・デリバリーのフローチャートを見ながら、サービスプロセスを理解する ※キーワード:劇場のアナロジー、OTSUとISSO、 |
14. 需要と供給能力のマネジメント | 物財とサービスとの差異に「在庫がない」点があげられる。供給能力と需要を理解し、需要のマネジメントを行なう | |
15. 行列と予約のマネジメント | 需要が供給能力を超過する場合の需要保持の施策として行列や予約の活用を謳う ※キーワード:イールド・マネジメント |
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16. サービス従業員:リクルートからリテンションまで | サービス組織では人的資源に投資する必要があり、採用・訓練・モチベーション・リテンションが重要であることを説く ※キーワード:エンパワーメント、イネーブルメント、失敗サイクル、劣悪サイクル、成功サイクル |
以下、気づいたり考えたこと。
- 上述したように、本書に書かれている内容は「サービス」に提供している組織にいる者にとってはいずれも馴染み深く、課題の整理によい。一方で、「サービス」というもののなかで人的要素がいかに重要な位置を占めているかには気づかされた。
- ゆえに、特にサービス組織の人的マネジメントについて扱った第16章は興味深い。こと「ハイ・コンタクト・サービス」においては従業員は「フィジカル・エビデンス」(無形のサービスにとって、サービスのクォリティを感知可能なものとするための代替物。視覚的な手がかり)であるということや、それゆえにどのような訓練を施すか、またそもそもどのような人物を採用するべきかなど、そのまま事業運営のヒントとなるような内容が書かれていて有用。
- 本書を読みながら、自分自身も「サービス・エクスペリエンス」を気にしながら日常生活でサービスを利用していた。そうすることで、本書の説く「サービス・マーケティング」や「サービス・マネジメント」を提供者側・顧客側の両面から立体的に理解ができたように思う。たとえば、Rettyに書いたラーメン屋に関するこのレビューなどはその試み。ここではオペレーション(サービス・デリバリーや、行列のマネジメント)や、サービス組織の従業員の訓練やモラール、顧客同士のポジティブフィードバック(「プロダクトの一部としての他の人々の存在」, p.19)、それらの結果としての顧客ロイヤルティ… などのテーマを含めたつもりだ。
[…] 第8週の課題図書は、先週の課題図書に引き続きサービス・マネジメント関連のテーマで、日本人研究者による入門書。先週のラブロック&ライトによる『サービス・マーケティング原理』がかなり広範な大著だったので、今週の本は内容的に重なる部分も多く、手早く読むことができた。 […]
[書評] 近藤隆雄『サービス・マネジメント入門(第3版)』 | Think Webby
26 2月 17 at 15:01
[…] 第9週の課題図書は、先々週、先週の課題図書に引き続きサービス産業に関するテーマの書物。ゼロ年代前半にサービス・イノベーションを体系化することが叫ばれ、IBMがSSME(Service Science, Management, Engineering)というサービス・イノベーションへのパースペクティブを主唱するなか。2006年4月に開催されたドイツ初のサービス・サイエンスに関する国際会議での発表をまとめたものが本書。 […]
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