▼Week06-#01:鈴木良隆(編)『ソーシャル・エンタプライズ論』(有斐閣, 2014年)
感想:★★★★☆
読了:2017/02/11
第6週目の課題図書は、先週の課題図書に引き続いて一橋の経営学修士コースの講義をもとにした書籍で、もともと「企業家と社会」という科目での講義をまとめたもの(リンク:著者による解題)。編者が先週の図書の著者と一緒ということもあり、後半のいくつかの章(特に第10章「日本における企業の出現と社会」での日本企業の労働力の確保の仕方と、それによる労使関係に関する議論の箇所)は内容的にも重なる部分もありました。
上記のリンク先で著者が自ら書いているように、もととなった科目「企業家と社会」が講義されているときに発生した東日本大震災後のことが本書の内容にかなり色濃く反映されています。震災の復興の火急性によって日本においてもソーシャルエンタープライズ(社会起業)への眼差しが変わったと見ているであろう本書では、グラミン銀行(Wikipedia)や『Big Issue』(Wikipedia)といった世界的に見たソーシャル・エンタープライズ一般の話も取り上げつつ、日本におけるソーシャル・エンタープライズというテーマでうまくまとめた本だと思いました。
以下、メモ。
- 欧米各国でソーシャル・エンタープライズが発生してきた経緯と、その議論をそのまま適用しにくい日本の状況とを、本書を通読することで整理できる。第6章「ソーシャル・エンタプライズのフロンティア」では、米国では1960年代後半以降の公民権運動・反戦運動・消費者運動・環境運動などによって企業に社会的責任が求められたことや、1980年代以降のレーガン政権下でNPOセクターへの予算が削減されたこと、また英国では1990年代後半の労働党政権によってソーシャル・エンタープライズが政策に組み込まれてきたことが背景として説明される。また、第9章「ソーシャル・アントレプルナーの源流」ではさらに遡って、ロバート・オウエン(Wikipedia)やサン=シモン主義(Wikipedia)といったところにまで源流を探っている。一方、「欧州各国における協同組合の発展や、雇用の主体としてのソーシャル・エンタープライズを位置づける議論の前提条件を、日本社会は必ずしも共有していなかった」(本書, p.30)。
- いくつかの事例を挙げながら、本書では日本でのソーシャル・アントレプレナーシップの萌芽を好意的に見つつも、そのハードルもまたいろいろと挙げられている。人材もしかり、起業環境もしかりである。
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日本型雇用習慣のなかで、労働人口の大半を企業社会が独占していたことが、専門的な人材や労働力のパブリック・セクターへの流入を阻害した。畢竟、担い手は(企業社会からの安定した家計に支えられた)主婦と、現役を退いた高齢者中心にならざるをえなかった。(同, p.31)
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社会的包摂と雇用の担い手として、パブリック・セクターとソーシャル・エンタプライズを活用し、創業を積極的に促進してきた欧州や韓国とは異なり、ソーシャル・エンタープライズのみならず起業全般が低迷しているのが日本の現状である。(同, p.37)
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日本のソーシャル・エンタプライズは確実に多様性を増し、新規の創業も相次いでいる。だが、そもそも営利企業の起業も容易でない日本社会のなかで、社会領域を対象とした新しい主体が着実に成長軌道に乗ることができるかは未知数と言わざるをえない。(同, p.61)
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- 本書が特徴的であるのは、「ソーシャル・エンタープライズ」論でありつつも、それを通じて「企業」論となっている点だ。それはもともとが「企業家と社会」という講義として企図されたものだからであろう。序章と終章ではシュムペーターを引用しながら、「企業〔エンタープライズ〕とは『新結合』〔イノベーション〕を遂行することであり、あるいはそれを遂行する組織体のことである」(同, p.12)と強調される。ゆえに、ソーシャル・エンタープライズとは「従来の課題を、その解決の仕方を変えること」(同, p.260)であり、それは極めて技術経営的なテーマであると言える。
▼アントレプレナーシップに関する読書リスト
No. | 読了日 | 評価 | 書名 | 著者名 |
---|---|---|---|---|
1 | 2017/01/10 | ★★★★☆ | 『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』 | P.F.ドラッカー |
2 | 2017/02/11 | ★★★★☆ | 『ソーシャル・エンタープライズ論』 | 鈴木良隆 (編) |
3 | 2017/03/04 | ★★★☆☆ | 『アントレプレナーシップ入門』 | 忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎 |
4 | 2017/03/17 | ★★★☆☆ | 『アントレプレナーの戦略論』 | 新藤晴臣 |
[…] 今週の課題図書を早めに読み終えたので、第9週の2冊目として、手短に読めそうな1冊を前倒しで読みました。第2週に読んだ『イノベーションと企業家精神』や第6週の『ソーシャル・エンタプライズ論』以来のアントレプレーナーシップ関連のテーマの本。 […]
[書評] 忽那憲治 他『アントレプレナーシップ入門』 | Think Webby
5 3月 17 at 09:31