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[BookReview] M. レビンソン『コンテナ物語 – 世界を変えたのは「箱」の発明だった』

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▼Week01-#02:M. レビンソン『コンテナ物語 – 世界を変えたのは「箱」の発明だった』(村井章子訳, 日経BP社)

感想:★★★★★
読了:2017/01/08

地元の駅では、普段使う在来線の電車と同じ線路の上を貨物列車が走っていて、幼い頃から石炭やコンテナを運ぶ列車をよく眺めていたので、「コンテナ」というものは親しみがあるというか、少なくともずっと昔からあるものだと思っていましたが、そうではなく、その歴史はまだ60年程度。本書は、その「コンテナ」の歴史とそれがもたらした影響を丁寧に描いた書物。

構成は、コンテナの発明に至るまでの海運業の前史と、マルコム・マクリーンという天才的起業家の起こした発明について記述した前半に続き、後半ではコンテナリゼーションがもたらしたロジスティクスの変化や、物流産業にとどまらないグローバル化への影響について詳述しています。

マルコム・マクリーンがすぐれて先見的だったのは、海運業とは船を運行する産業ではなく、貨物を運ぶ産業だと見抜いたことである。(中略)輸送コストの圧縮に必要なのは単に金属製の箱ではなく、貨物を扱う新しいシステムなのだということを、マクリーンは理解していた。港、船、クレーン、倉庫、トラック、鉄道、そして海運業そのもの――つまり、システムを構成するすべての要素が変わらなければならない。(レビンソン『コンテナ物語』p.80)

この「物語」という邦題がつけられた書物は、あるアントレプレナーが起こしたイノベーションの物語としても面白いながらも、以下の点で示唆に富み、アクチュアルな問題を考える上で参考になるように覚えました。

  • イノベーションがその先にどのような未来を生み出すかは、発明した当事者ですら正確に予測することは難しい。最後部の第13〜14章で扱われているように、コンテナリゼーションは単に海運業や輸送業界に効率化・低コスト化をもたらしただけでなく、メーカー・小売業がグローバル・サプライチェーンを構築することを用意した。本書中でも触れられるようにトヨタに代表される「ジャストインタイム方式」の実現の背景にロジスティクス要素が整ったことの影響は大きい。そして、この状況は現在の企業活動のグローバル化へとつながっている。
  • 上記のようにメーカー・小売業などの他産業(物流業にとっては顧客となる「荷主」)へと広範な影響がおよんでいくより前に、無論、イノベーションは業界内での勢力図というか、プレイヤーの役割・重要度に変化を与える。本書では、従来船主にとって荷揚げに不可欠だった港湾労働者(沖仲仕)への影響や、港湾整備への影響が詳述される。戦略の概説書などによく現れるような「5つの力(five forces)」を生々しく理解するうえで、一連の各章の記述は非常に参考になる。
  • 上での引用箇所にあるように、「コンテナリゼーション」とは、単なる金属の箱の発明ではなく、それをコアとした一連のシステムの発明であった。この観点からは、「コンテナの規格化」論争などを扱った各章の記述は、例えばガワー&クスマノのプラットフォーム論と対比して読むことも興味深かろう。
  • こと、労働組合と船会社との交渉についてまるまる割かれた第6章は、非常にアクチュアルに読み直すことができるかもしれない。つまり、昨今言われているAIによる人の作業・労働の代替(が起きる可能性)とは、コンテナリゼーションが港湾労働者から仕事を奪っていったことと類似的である。興味深いことは、必ずしも港湾労働者はすべての機械化に抗していたわけではないことである。
    • 機械化が導入され『現場ルール』が姿を消すと、1960年まで20年間ずっと横ばいだった労働生産性は大幅に上昇する。(中略)とはいえ組合の予期に反し、こうした大幅な効率改善に貢献したのは機械化ではなく『汗』だった。(中略)その結果、じつに珍妙な現象だが、労使の立場は逆転する。組合は重労働をすこしでも楽にしようと『早く機械化を進めろ』と経営側に注文をつけるようになったのだ」(同, pp.161-2)

以上のように、読むのに時間がかかる書物ながら、それ以上に考えるテーマやヒントを与えてくれる良書でした。忘れた頃にまた読みたい本です。


Written by shungoarai

1月 8th, 2017 at 7:00 pm

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