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[BookReview] ドラッカー『イノベーションと企業家精神[エッセンシャル版]』

one comment

▼Week02-#01:P.F. ドラッカー『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』(上田惇生訳, ダイヤモンド社)

感想:★★★★☆
読了:2017/01/10

第2週目の1冊目は、ドラッカーの名著。しかし、完訳版は結構な分量なので、まず一巡目は「エッセンシャル版」でショートカットしてしまいました。それでもかなり濃い内容になっています。

本書の趣旨は、いかに「イノベーション」という営みをサイエンスし、きちんとマネジメントできる(つまり企業活動へと適応させる)かということ。原題は “Innovation and Entrepreneurship” となっていますが、「アントレプレナーシップ」とはいうものの、けっして起業家・創業者に絞ったようなテーマを扱っているわけではなく(特に第2部で扱っているように)ベンチャー企業のみならず、民間の既存企業やあるいは公的機関すらもその扱う対象として含め、いかに新たな事業を仕立てるかを体系的に考察しています。

「イノベーションの機会」を扱った第1部(「7つの機会」を順に挙げて考察しています)もさることながら、企業の管理職の視点からは、イノベーションのマネジメントを扱った第2部と、どういう戦略を取るべきかを概観した第3部にとても学びがあると感じました。

この書籍のよいのは、単にきれいに整理をするに終わらずに事例を挙げ、特徴・前提・条件・制約などを検討しているところです。そして、章立てもまた各章内の論理構造もかなり明解なので、読みながら迷子になったりしません。座右に置いて折りに触れ読みたい本だと思いました。だからKindleで購入したのは正解。

「イノベーション」や「企業家精神」を「仕事」と断じ、よくあるように「才能やひらめきなどの神秘的なもの」とすることなく、あくまで企業活動の範囲内にある(むしろそうあってこそ事業として成功しうる)と描いた本書は、実践家にとってとても役立ちそうです。

▼アントレプレナーシップに関する読書リスト

No.読了日評価書名著者名
12017/01/10★★★★☆『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』P.F.ドラッカー
22017/02/11★★★★☆『ソーシャル・エンタープライズ論』鈴木良隆 (編)
32017/03/04★★★☆☆『アントレプレナーシップ入門』忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎
42017/03/17★★★☆☆『アントレプレナーの戦略論』新藤晴臣


Written by shungoarai

1月 11th, 2017 at 2:00 am

[BookReview] M. レビンソン『コンテナ物語 – 世界を変えたのは「箱」の発明だった』

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▼Week01-#02:M. レビンソン『コンテナ物語 – 世界を変えたのは「箱」の発明だった』(村井章子訳, 日経BP社)

感想:★★★★★
読了:2017/01/08

地元の駅では、普段使う在来線の電車と同じ線路の上を貨物列車が走っていて、幼い頃から石炭やコンテナを運ぶ列車をよく眺めていたので、「コンテナ」というものは親しみがあるというか、少なくともずっと昔からあるものだと思っていましたが、そうではなく、その歴史はまだ60年程度。本書は、その「コンテナ」の歴史とそれがもたらした影響を丁寧に描いた書物。

構成は、コンテナの発明に至るまでの海運業の前史と、マルコム・マクリーンという天才的起業家の起こした発明について記述した前半に続き、後半ではコンテナリゼーションがもたらしたロジスティクスの変化や、物流産業にとどまらないグローバル化への影響について詳述しています。

マルコム・マクリーンがすぐれて先見的だったのは、海運業とは船を運行する産業ではなく、貨物を運ぶ産業だと見抜いたことである。(中略)輸送コストの圧縮に必要なのは単に金属製の箱ではなく、貨物を扱う新しいシステムなのだということを、マクリーンは理解していた。港、船、クレーン、倉庫、トラック、鉄道、そして海運業そのもの――つまり、システムを構成するすべての要素が変わらなければならない。(レビンソン『コンテナ物語』p.80)

この「物語」という邦題がつけられた書物は、あるアントレプレナーが起こしたイノベーションの物語としても面白いながらも、以下の点で示唆に富み、アクチュアルな問題を考える上で参考になるように覚えました。

  • イノベーションがその先にどのような未来を生み出すかは、発明した当事者ですら正確に予測することは難しい。最後部の第13〜14章で扱われているように、コンテナリゼーションは単に海運業や輸送業界に効率化・低コスト化をもたらしただけでなく、メーカー・小売業がグローバル・サプライチェーンを構築することを用意した。本書中でも触れられるようにトヨタに代表される「ジャストインタイム方式」の実現の背景にロジスティクス要素が整ったことの影響は大きい。そして、この状況は現在の企業活動のグローバル化へとつながっている。
  • 上記のようにメーカー・小売業などの他産業(物流業にとっては顧客となる「荷主」)へと広範な影響がおよんでいくより前に、無論、イノベーションは業界内での勢力図というか、プレイヤーの役割・重要度に変化を与える。本書では、従来船主にとって荷揚げに不可欠だった港湾労働者(沖仲仕)への影響や、港湾整備への影響が詳述される。戦略の概説書などによく現れるような「5つの力(five forces)」を生々しく理解するうえで、一連の各章の記述は非常に参考になる。
  • 上での引用箇所にあるように、「コンテナリゼーション」とは、単なる金属の箱の発明ではなく、それをコアとした一連のシステムの発明であった。この観点からは、「コンテナの規格化」論争などを扱った各章の記述は、例えばガワー&クスマノのプラットフォーム論と対比して読むことも興味深かろう。
  • こと、労働組合と船会社との交渉についてまるまる割かれた第6章は、非常にアクチュアルに読み直すことができるかもしれない。つまり、昨今言われているAIによる人の作業・労働の代替(が起きる可能性)とは、コンテナリゼーションが港湾労働者から仕事を奪っていったことと類似的である。興味深いことは、必ずしも港湾労働者はすべての機械化に抗していたわけではないことである。
    • 機械化が導入され『現場ルール』が姿を消すと、1960年まで20年間ずっと横ばいだった労働生産性は大幅に上昇する。(中略)とはいえ組合の予期に反し、こうした大幅な効率改善に貢献したのは機械化ではなく『汗』だった。(中略)その結果、じつに珍妙な現象だが、労使の立場は逆転する。組合は重労働をすこしでも楽にしようと『早く機械化を進めろ』と経営側に注文をつけるようになったのだ」(同, pp.161-2)

以上のように、読むのに時間がかかる書物ながら、それ以上に考えるテーマやヒントを与えてくれる良書でした。忘れた頃にまた読みたい本です。


Written by shungoarai

1月 8th, 2017 at 7:00 pm