Think Webby

Thinking around from the webby point of view

Archive for the ‘Entrepreneurship’ tag

[BookReview] 新藤晴臣『アントレプレナーの戦略論』

leave a comment

▼Week11-#01:新藤晴臣『アントレプレナーの戦略論 – 事業コンセプトの想像と展開』(中央経済社, 2015年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/03/17

2冊続いたファイナンス関連を離れてアントレプレナーシップに関する書籍に戻りました。大阪市立大学大学院(アントレプレナーシップ研究分野)准教授による『アントレプレナーの戦略論』は、大企業に関する研究をもとに発展した経営戦略論の新興企業への適用をテーマとして書かれた本。

アントレプレナーが〔大企業の研究に基づいて開発され、実践への適用事例としても大企業のものが多い〕経営戦略論を実践に適用しようとした場合、かなりの労力と(自己流に近い)解釈が必要」(新藤『アントレプレナーの戦略論』ii)という課題意識から書かれているので、巷間に広まっている有名なフレームワーク(3C、4P、PPM、SWOT、5フォースなど)をどのように使いこなすかを平易に書いたものでもあり、これらのフレームワークについてある程度知識がある人であれば読み飛ばしてスピーディに読めると思います。

それらの環境分析や経営戦略のフレームワークを用いたうえで、本書では、D.F. エーベル(『事業の定義』)の議論などに基づく「事業コンセプト」にまとめ、組織内外のプレイヤーと事業定義に関する認識合わせ(ドメイン・コンセンサス)がされることが重要だと説かれます。「事業コンセプト」は「自社は何屋さんであるか」であり、①顧客=Who、②顧客機能=What、③代替技術=Howの軸で整理されるとしています。

以下メモ。

  • 本書の企図に反して、第3章以降の「実践適用」に関するパートよりも、これまで経済学・経営学でいかにアントレプレナー(あるいはアントレプレナーシップ)が扱われてきたかを概観した第1〜2章がよくまとまっていて参考図書リストとしてよいと思った。
  • ことイノベーションに関してよく引き合いに出されるJ. シュンペーターに加えて、I. カーズナーを持ってきて比較している箇所は面白かった。「アントレプレナーの本質的な役割について、シュンペーターは『不均衡をつくり出す勢力』ととらえ、革新によって変化を引き起こすとしている。一方カーズナーは、『均衡をつくり出す勢力』ととらえ、変化の発生を認識し、それに反応する存在と説明している」(同書, p.8)。この枠組みは、他の研究者の成果を引用しながら後半でも現れる。新興企業の成長ステージを3つに分けたとき、「〔不連続な変革が行われる〕①スタートアップ期と③安定期には『シュンペーター型』のアントレプレナーシップが、〔漸進的な変革が行われる〕②成長期には『カーズナー型』のアントレプレナーシップが、それぞれ出現すると論じられている」(同書, p.193)。これは、新興企業のめまぐるしく変わる事業フェーズもしくは経営フェーズによって、どのようなマネジメントが必要とされるかという議論とも対応している。
  • 各章の章末には、それぞれの章で述べられたフレームワークの実践適用事例として著者の関わったケースの紹介がある。興味深いものもあるが全体的には物足りない印象(外部環境のリスク認識や、自社の強みに関する自己認識の面での甘さや、プライシング決定に関する唐突感など)。逆に考えると、事業に直接携わる人物が事業計画を作ると、このように死角が生まれがちだということを教えてくれ意味で、とても参考になるかもしれない。3Cに関する説明箇所で書かれるように、「アントレプレナーシップを実行する経営戦略では、前述の3つのプレーヤーのうち、自社(Company)が最も重要な要素となる。アントレプレナーシップを実行する新興企業では、自社を規定するところから経営戦略がはじまるからである」(同書, p.103)という点については同感だが、自社(Company)の能力や事業機会は外部とのきわめて相対的な関係から決まるものだ。
  • アントレプレナーシップについて論じる際、どの程度の規模の事業に育てることをそもそものゴールとしているかという視点を欠くと、理論的にも実践的にも的外れになってしまう懸念があることは注意したい。しかし同時にこれは、「アントレプレナー」や「スタートアップ」をいかに定義するかということでもあり、なかなかに微妙な問題を孕んでいる(例えば、クラウドファンディングで集めた資金で「海の家」を作ろうとする事業は「スタートアップ」と呼んで適切か、など。おそらくは、何らかの「技術的な解決」をともなった事業でなければ、経済学的な意味合いでの「アントレプレナー」とは呼びにくいのだと思う)。

▼アントレプレナーシップに関する読書リスト

No.読了日評価書名著者名
12017/01/10★★★★☆『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』P.F.ドラッカー
22017/02/11★★★★☆『ソーシャル・エンタープライズ論』鈴木良隆 (編)
32017/03/04★★★☆☆『アントレプレナーシップ入門』忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎
42017/03/17★★★☆☆『アントレプレナーの戦略論』新藤晴臣

Written by shungoarai

3月 18th, 2017 at 11:40 am

[BookReview] 忽那憲治 他『アントレプレナーシップ入門』

leave a comment

▼Week09-#02:忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎『アントレプレナーシップ入門 – ベンチャーの創造を学ぶ』(有斐閣, 2013年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/03/04

今週の課題図書を早めに読み終えたので、第9週の2冊目として、手短に読めそうな1冊を前倒しで読みました。第2週に読んだ『イノベーションと企業家精神』や第6週の『ソーシャル・エンタプライズ論』以来のアントレプレーナーシップ関連のテーマの本。

本書は、冒頭の「はしがき」にも書かれているように、高校を卒業したての学部学生に向けたアントレプレナーシップの教科書。とはいえ、「新奇性が高いものを創造しようと思えば、単に専門力を深めるだけでは不十分で、専門力と同時に総合力が問われる。アントレプレナーシップとはまさにそうした性格を持った学問である」(忽那 他『アントレプレナーシップ入門』, i)とあるように、ややもすると専門化してしまいがちな職業人にとっても開眼させられる内容です。ここで言われる「総合力」たるものを育てることこそが教養教育(リベラルアーツ)であって、そういう意味で、この本が高校を卒業したての学生をターゲットとしているのは非常に納得がいきます。

本書の構成は、起業を思いつくアントレプレナーがいかなることをしなくてはならないかを、事業機会を見つける段階からビジネスモデルを構築して、チームを作り、資金調達をして… という順を追って概説します。「日本のスタートアップ企業では、事業機会の評価をすること、あるいは事業機会が存在するかについて検証することさえ行わない例が多く見られる」(同書, p.39)や、「自分の発案したアイデアがどのようにすばらしいかをアピールするあまりに、自らのアイデアに固執しすぎてしまうアントレプレナーが多い」(同書, p.53)という記述には心当たりがとてもあります。教養教育課程の学生に限らず、起業を志向する方がプロセスを学び、かつ、いかなる陥穽があるかを把握するためにもよい書物です。ベンチャー企業で経営企画部門を担う身としては、目新しいといった内容はないものの、よくまとまっているので頭が整理されました。以下、その他メモ。

  • その他、潜在顧客を考えるための「共感図(empathy map)」法や、ブレインストーミングの際に発想を発散させるための「オズボーンの9つのチェックリスト」など使いやすそうな思考のフレームワークが折に触れて紹介されているのも簡潔で実用的。
  • クリステンセン 他『イノベーションのDNA』から紹介をされている箇所であるが、「イノベータDNA」モデルは非常にわかりやすい。「彼らの研究によれば、破壊的イノベータは、一見、無関係に見える問題やアイデアを結びつけて、新しい方向性を見出すことができるという認知的スキルである『関連づけ思考』を働かせている。また、この関連づけ思考を誘発するために、質問力、観察力、ネットワーク力、実験力という4つの行動的スキルをフルに活用している」(同書, pp.14-5)
  • 読書リストが各章末にまとまっているのも○。

▼アントレプレナーシップに関する読書リスト

No.読了日評価書名著者名
12017/01/10★★★★☆『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』P.F.ドラッカー
22017/02/11★★★★☆『ソーシャル・エンタープライズ論』鈴木良隆 (編)
32017/03/04★★★☆☆『アントレプレナーシップ入門』忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎
42017/03/17★★★☆☆『アントレプレナーの戦略論』新藤晴臣

Written by shungoarai

3月 5th, 2017 at 9:30 am

[BookReview] ドラッカー『イノベーションと企業家精神[エッセンシャル版]』

one comment

▼Week02-#01:P.F. ドラッカー『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』(上田惇生訳, ダイヤモンド社)

感想:★★★★☆
読了:2017/01/10

第2週目の1冊目は、ドラッカーの名著。しかし、完訳版は結構な分量なので、まず一巡目は「エッセンシャル版」でショートカットしてしまいました。それでもかなり濃い内容になっています。

本書の趣旨は、いかに「イノベーション」という営みをサイエンスし、きちんとマネジメントできる(つまり企業活動へと適応させる)かということ。原題は “Innovation and Entrepreneurship” となっていますが、「アントレプレナーシップ」とはいうものの、けっして起業家・創業者に絞ったようなテーマを扱っているわけではなく(特に第2部で扱っているように)ベンチャー企業のみならず、民間の既存企業やあるいは公的機関すらもその扱う対象として含め、いかに新たな事業を仕立てるかを体系的に考察しています。

「イノベーションの機会」を扱った第1部(「7つの機会」を順に挙げて考察しています)もさることながら、企業の管理職の視点からは、イノベーションのマネジメントを扱った第2部と、どういう戦略を取るべきかを概観した第3部にとても学びがあると感じました。

この書籍のよいのは、単にきれいに整理をするに終わらずに事例を挙げ、特徴・前提・条件・制約などを検討しているところです。そして、章立てもまた各章内の論理構造もかなり明解なので、読みながら迷子になったりしません。座右に置いて折りに触れ読みたい本だと思いました。だからKindleで購入したのは正解。

「イノベーション」や「企業家精神」を「仕事」と断じ、よくあるように「才能やひらめきなどの神秘的なもの」とすることなく、あくまで企業活動の範囲内にある(むしろそうあってこそ事業として成功しうる)と描いた本書は、実践家にとってとても役立ちそうです。

▼アントレプレナーシップに関する読書リスト

No.読了日評価書名著者名
12017/01/10★★★★☆『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』P.F.ドラッカー
22017/02/11★★★★☆『ソーシャル・エンタープライズ論』鈴木良隆 (編)
32017/03/04★★★☆☆『アントレプレナーシップ入門』忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎
42017/03/17★★★☆☆『アントレプレナーの戦略論』新藤晴臣


Written by shungoarai

1月 11th, 2017 at 2:00 am