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[BookReview] 忽那憲治 他『アントレプレナーシップ入門』

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▼Week09-#02:忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎『アントレプレナーシップ入門 – ベンチャーの創造を学ぶ』(有斐閣, 2013年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/03/04

今週の課題図書を早めに読み終えたので、第9週の2冊目として、手短に読めそうな1冊を前倒しで読みました。第2週に読んだ『イノベーションと企業家精神』や第6週の『ソーシャル・エンタプライズ論』以来のアントレプレーナーシップ関連のテーマの本。

本書は、冒頭の「はしがき」にも書かれているように、高校を卒業したての学部学生に向けたアントレプレナーシップの教科書。とはいえ、「新奇性が高いものを創造しようと思えば、単に専門力を深めるだけでは不十分で、専門力と同時に総合力が問われる。アントレプレナーシップとはまさにそうした性格を持った学問である」(忽那 他『アントレプレナーシップ入門』, i)とあるように、ややもすると専門化してしまいがちな職業人にとっても開眼させられる内容です。ここで言われる「総合力」たるものを育てることこそが教養教育(リベラルアーツ)であって、そういう意味で、この本が高校を卒業したての学生をターゲットとしているのは非常に納得がいきます。

本書の構成は、起業を思いつくアントレプレナーがいかなることをしなくてはならないかを、事業機会を見つける段階からビジネスモデルを構築して、チームを作り、資金調達をして… という順を追って概説します。「日本のスタートアップ企業では、事業機会の評価をすること、あるいは事業機会が存在するかについて検証することさえ行わない例が多く見られる」(同書, p.39)や、「自分の発案したアイデアがどのようにすばらしいかをアピールするあまりに、自らのアイデアに固執しすぎてしまうアントレプレナーが多い」(同書, p.53)という記述には心当たりがとてもあります。教養教育課程の学生に限らず、起業を志向する方がプロセスを学び、かつ、いかなる陥穽があるかを把握するためにもよい書物です。ベンチャー企業で経営企画部門を担う身としては、目新しいといった内容はないものの、よくまとまっているので頭が整理されました。以下、その他メモ。

  • その他、潜在顧客を考えるための「共感図(empathy map)」法や、ブレインストーミングの際に発想を発散させるための「オズボーンの9つのチェックリスト」など使いやすそうな思考のフレームワークが折に触れて紹介されているのも簡潔で実用的。
  • クリステンセン 他『イノベーションのDNA』から紹介をされている箇所であるが、「イノベータDNA」モデルは非常にわかりやすい。「彼らの研究によれば、破壊的イノベータは、一見、無関係に見える問題やアイデアを結びつけて、新しい方向性を見出すことができるという認知的スキルである『関連づけ思考』を働かせている。また、この関連づけ思考を誘発するために、質問力、観察力、ネットワーク力、実験力という4つの行動的スキルをフルに活用している」(同書, pp.14-5)
  • 読書リストが各章末にまとまっているのも○。

▼アントレプレナーシップに関する読書リスト

No.読了日評価書名著者名
12017/01/10★★★★☆『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』P.F.ドラッカー
22017/02/11★★★★☆『ソーシャル・エンタープライズ論』鈴木良隆 (編)
32017/03/04★★★☆☆『アントレプレナーシップ入門』忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎
42017/03/17★★★☆☆『アントレプレナーの戦略論』新藤晴臣

Written by shungoarai

3月 5th, 2017 at 9:30 am

[BookReview] スタウス 他『サービス・サイエンスの展開』

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▼Week08-#01:ベルンド・スタウス 他編『サービス・サイエンスの展開 – その基礎、課題から将来展望まで』(生産性出版)

感想:★★★☆☆
読了:2017/03/03

第9週の課題図書は、先々週先週の課題図書に引き続きサービス産業に関するテーマの書物。ゼロ年代前半にサービス・イノベーションを体系化することが叫ばれ、IBMがSSME(Service Science, Management, Engineering)というサービス・イノベーションへのパースペクティブを主唱するなか、2006年4月に開催されたドイツ初のサービス・サイエンスに関する国際会議での発表をまとめたものが本書。

学会発表ということもあってかきちんとまとまった論文というよりは論点提示に留まって議論が端折られていたり、あるいは生煮えの部分なども多いと感じましたが、そういった点も含め、新たな学問分野の立ち上がりに際して研究者が試行錯誤しているような息吹が伝わってくるような一冊です。

序章における最も簡潔な定義によれば「サービス・サイエンスは新しい科学的な概念として定義され、その目的は学会とサービス企業との集中的な協力関係のなかで、学際的なアプローチを適用することによって、サービス経済の複雑な諸問題の解決を目指すものである」(スタウス 他『サービス・サイエンスの展開』p.5)。また、別の箇所では「サービス・サイエンティストが行うべきことは、サービス・システムを研究し、サービス・システムを改善し、そして、サービス・システムを拡大することである」(ジム・スボラー「サービス・サイエンス、マネジメント、エンジニアリング(SSME)と他の学問領域との関連」同書, p.49)とし、「サービス・サイエンス」に「人々やテクノロジー、他の内部および外部サービス・システム、および(言語や法のような)共有情報からなる価値の共同生産構造」(同, p.47)という定義を与えています。

こういった考え方に基づいて、従来の学問との距離感覚(重複や差異)や企業と学問の府とがいかに協働しうるかといった点をさまざまな角度から語られています。

以下、メモ。

  • 先週・先々週に読んだサービスに関する概説書のなかでさまざまに触れられていた「サービスと物財との差異」については一通りの認識を持ちながら読み進めていったなかで、以下のような記述にぶつかって、学究的な姿勢の厳密さにハッとする。「行為者と参加者を巻き込むこのプロセスを取り上げることは、サービス・サイエンスにとって、明確で関連性のある焦点をもつことになる。加えて、革新的で複雑な問題を取り扱うには学際的な分析を必要とするであろう。したがって、この見方は将来性のある選択となる。ただ、この見方は経済的な変化を取り上げているのであって、サービスそのものを対象としているのではないことを忘れてはならない」(ベルンド・スタウス「サービス研究の国際的現状、発展、およびサービス・サイエンスが登場した意義」同書, p.91)
  • サービス産業の経済に占めるポーションが大きくなり、なおかつ従来型の製造業の企業内においても事業におけるサービス領域が大きくなっているという現状から、サービスにおけるイノベーションを体系的に創出することに対する切迫感が全体を通じてある。国単位での産業振興ということを考える時、産学や産学官での協働が重要であるが、一方、これらの協働を奏功させるためには各プレイヤーがそれぞれそこに価値を感じ、メリットを享受できるような長期的なパートナーシップが必要である。本書では、新たな学問領域の扱う範囲やその背景となる問題認識のみならず、いかに成果のある研究を行いうるかという方法論についても議論されている。
  • S-Dロジック(サービス・ドミナントロジック)についてはちゃんと勉強しておきたいと思った。

Written by shungoarai

3月 4th, 2017 at 10:45 am

[BookReview] 近藤隆雄『サービスマネジメント入門(第3版)』

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▼Week08-#01:近藤隆雄『サービス・マネジメント入門(第3版)』(生産性出版, 2007年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/02/26

第8週の課題図書は、先週の課題図書に引き続きサービス・マネジメント関連のテーマで、日本人研究者による入門書。先週のラブロック&ライトによる『サービス・マーケティング原理』がかなり広範な大著だったので、今週の本は内容的に重なる部分も多く、手早く読むことができた。

本書は、主に(著者による訳書もある)リチャード・ノーマンの研究実績を辿りながら、サービス・マネジメントについて概説している。ところどころ著者による主観的なエッセーのような箇所もあるものの、題名に「入門」と書かれているだけに入門書としての良さもあり、それは特に、研究史的な概観を示したり、欧米で発展した議論を日本に適用する場合の特殊性などを書いている箇所に現れている。

サービス・サイエンスは(略)最初は、中国のレノボ社へコンピュータの製造部門を売却したIBMの社内で、通常、製造業の場合には企業発展の要となる製品開発部門を、いまやサービス企業となったIBMではどのように構成したらよいか、という議論の中から出てきた概念であるようだ。」(近藤『サービス・マネジメント入門(第3版)』p.ii)

『サービス・マネジメント』の分野は、欧米においても経営の新しい研究領域である。いつ頃、この用語が生まれたかは定かではないが、一説には1983年からスカンジナビア航空が行った大規模な組織改革をキッカケとして北欧諸国で最初に広まったと言われている。ハーバード大学のビジネススクールで、『サービス・マネジメント』というコースが開講されたのも83年である。それ以前は、『サービス業務の管理』という名前のコースが設けられていた(なお、北米では『サービス・マネジメント』よりも『サービス・マーケティング』という言葉が使用されることが多い。アメリカでは、マーケティング研究からサービスの研究が派生したことと、企業の外部適応が主要な関心であることがその理由と考えられる。これに対し、ヨーロッパ諸国では『サービス・マネジメント』が主に使われている)。」(同書, p.vii-viii)

本書の本題に入る前の部分で、多くの日本人にとって素朴な疑問である「『サービス』とはどういう意味か」という問いについて、他の研究者の研究内容を借りつつ「態度的サービス」「精神的サービス」「犠牲的サービス」「機能的サービス」の4つに分類し、値引きや無料の意味を込めた「犠牲的サービス」を日本特有のものとしている。これについては、本書の後段でも、日本の「おもてなし」と「ホスピタリティ」の関係に触れられている。

この点は、こと「サービス」という企業活動が何を目的とし、顧客にいかなる価値を提供しているかについて意識的かどうかによるのかもしれない。

アメリカ産業界ではCS〔顧客満足〕活動がシッカリ定着し、現在でも顧客満足の調査を定期的に実施している企業は数多くあり、CS調査から生まれたデータを企業の効果性をはかる情報として活用している。わが国でCS活動が定着しなかった原因はいくつかあるが、最大の理由は、顧客満足度が企業全体のアウトプットだという認識が希薄で、特定の部門(例えば、最前線の部門)に責任を負わせてしまうという日本企業の体質にあると思われる。システム観の欠如である。その結果、顧客接点部門の従業員のお辞儀の仕方の訓練といった些末な対応しか生まなかったようだ。」(同書, p.174)

著者があるファミリーレストランの利用客に対して行ったSERVQUAL調査の結果も興味深い。

なお、五つのサービス品質を構成する要素の重要性を見てみると、アメリカの調査結果では、信頼性、反応性、確信性、共感性、物的要素の順であったが、この調査によると、共感性が信頼性に次いで二番目となっている。日本社会では、サービス取引の場面においても、個人的な配慮といった対人関係要因が大切だということの反映であろうか。」(同書, p.218)

以下、思ったこと。

  • 先週の図書と合わせて、サービス産業のビジネスにおける人的要因の重要性にあらためて気づかされる。生産性を高め、同時に顧客満足度を上げていくためにも、従業員をモチベートし、エンパワーし、彼らの満足度を上げていくことの重要性は非常に大きい。
    • 元経営者でサービス研究の先達である田辺英蔵氏は、その著書で次のように喝破している。『笑顔はタダだ、すなわち、コストをかけずにサービスを向上させようという心根は、経営者のケチかものぐさ、または理性の欠如であって、くり返すが、従業員の笑顔くらいコストのかかるものはない」(同書, p.179)

  • あらためて「自動車は『もの』であり、自動車が走行することが、自動車の『サービス』である」(同書, p.26)と書かれるとき、「サービス」という捉え方をすることでさまざまなビジネスの見方が変わるように感じた。たとえば、UBERやLyftのビジネスは一般には「シェアリングエコノミー」「ライドシェア」という言葉で言い表されているけれど、これは資源の調達面に目を向けた場合の視点によるもので、別の側面から見ると「Riding (Mobility) as a Service」とも呼ぶことができると思い当たった。
  • どのような価値(あるいは本書の枠組みでいうところの「サービス・コンセプト」)を顧客に届けるか、を考えていくことが当然ながら重要だ。私自身関わりのあるSaaS(Software as a Service)の領域でもこれは同様で、”as a Service” の部分はややもすると「パッケージソフトウェアという形ではない(クラウドで提供している)」という提供形式の部分にとらわれてしまいがちで、サービスの品質向上=提供するソフトウェア部分の品質向上という発想に陥ってしまうことも多いが、実際には、ソフトウェア云々を措いて「○○○ as a Service」を顧客への提供価値ベースで考える発想が必要なのかもしれない。

Written by shungoarai

2月 26th, 2017 at 3:00 pm

[BookReview] ラブロック&ライト『サービス・マーケティング原理』

2 comments

▼Week07-#01:C.ラブロック, L. ライト『サービス・マーケティング原理』(白桃書房)

感想:★★★★★
読了:2017/02/22

第7週目の課題図書は、400ページ近い大著だったので先週1週間では読みきれず少し期限をオーバー気味で読了したこちらの書籍。米 ハーバード・ビジネススクールやスイス IMD(国際経営開発研究所)などで教鞭をとってきたサービス・マーケティング分野に関する先駆者であるC. ラブロック博士による概説書。ふだん「サービス」を扱う企業のマネジメントに関わっている身からすると、どこに書かれた内容もそのひとつひとつが身に覚えのあるようなことで、ゆえに決して目新しいことがあるわけではない部分も多いのですが、「サービス」に関する多岐にわたったチェックポイントを網羅的に書いた本で、同じような立場にある方や、サービスを設計・企画するような方には必読書のように思います。

まず本書は、「サービス・マーケティング」とは何たるやというところから書き始められています。従来のマーケティング理論やビジネス理論は製造業の研究に基づいて発展してきたものであり、今日先進国・新興国を問わず経済における重要度が増しているサービス・セクター(いわゆる「サービス産業」の他にも、公共機関や非営利組織によって提供されるサービス財も含む)においてはそのまま適用されえないとして、「物財のマーケティング」とは異なる「サービスのマーケティング」の枠組みが必要であるとします。確かに、私自身も物事を考えたり整理する際に、従来のフレームワークや(そのもとになっている)「工場での生産/消費者へ向けた流通」といった比喩を用いたりするものの、うまく適用しにくいと感じることもあるので納得。

本書がテーマとする「サービスのマーケティング」は、狭義の「マーケティング」に留まりません。邦題は『サービス・マーケティング原理』となっていますが、原書のタイトルは “Principles of Service Marketing and Management” であることに意図が表れています。

本書はサービス・マーケティングだけに終始するものではない。各章を通して、他の2つの重要な職能――サービスのオペレーションと人的資源管理――についても言及がある。(略)マーケティング、オペレーション、人的資源管理における諸活動の統合が目標であって、この3つの分野のどこかで不都合があれば、結局は十分な収益が確保できない事態を招くことになるのである。(同書, pp.22-3)

物財とサービスとの差異のひとつとして「サービスにおいては顧客は生産プロセスに深く関与する」(たとえば、コインランドリーや銀行ATMの利用はユーザーの行動がなければ完結しないし、大学の授業や病院で診察をうけるときなどのように、サービスを提供する組織で働く従業員と協働の必要があったりする)という点が挙げられているように、通読するとわかるのは、「サービス」とはサービス単体で存立するものではなく、それを提供するプロセスやデリバリーの方法などすべてをひっくるめたものであって、よって、自ずと従業員や顧客のマネジメントも切り離して議論できないものであるということです。

さて、本書では議論を深め、あるいは具体化していく前に3つの有用な枠組みを提示します。

  • 統合的サービス・マネジメントの「8Ps」モデル:物材に対するマーケティングにおける4Pに代わるモデル(ただし、MECEではない)。
    1. プロダクト要素(product elements)
    2. 場所と時間(place and time)
    3. プロセス(process)
    4. 生産性とクォリティ(productivity and quality)
    5. 人的要素(people)
    6. プロモーションとエデュケーション(promotion and education)
    7. フィジカル・エビデンス(physical evidence)
    8. サービスの価格とその他のコスト(proce and other costs of service)
  • プロセスによるサービスの分類:プロセスの「対象」が人かモノか、有形の行為か無形の行為かの2軸によって4つのカテゴリーにサービスを大別する。(各カテゴリーに含まれるサービスもさまざまではあるが、カテゴリー内では類似の施策等も有効ではないかと示唆される)
    1. 人を対象とするサービス(人×有形):旅客輸送、ヘルスケア、宿泊 etc.
    2. 所有物を対象とするサービス(モノ×有形):貨物輸送、修理・保全、倉庫・保管 etc.
    3. メンタルな刺激を与えるサービス(人×無形):広告・PR、芸術・娯楽、放送、教育 etc.
    4. 情報を対象とするサービス(モノ×無形):会計、銀行、データ処理、保険 etc.
  • サービス組織と顧客コンタクトのレベルによるサービスの分類:
    • ハイ・コンタクト:サービス従業員とのエンカウンターが重視される
    • ロー・コンタクト:施設・設備とのエンカウンターが重視される

これらが第1部(第1〜4章)でまとめられた後、第2部では8Psモデルのうちオペレーショナルな性質が強い点を、第3部では狭義の「マーケティング」的な性格の強い点に触れて概説、最後の第5部ではより具体的な実務レベルのオペレーションを具体化し、前述の「マーケティング、オペレーション、人的資源管理」の3つの統合を図っています。第2部以降の本書の構成は以下のとおり。

内容
2:サービスによる価値の創造5. 生産性とクオリティサービスのクォリティについて顧客の期待や顧客満足との関係から整理し、またクォリティはサービス組織の生産性と不可分のものであることを見る

※キーワード:希望サービスと下限サービス、クォリティ・ギャップ、5つのクォリティの次元(信頼性、有形要素、反応性、確実性、共感性)、SERVQUAL尺度
6. リレーションシップ・マネジメントと顧客ロイヤルティの構築ターゲット・セグメンテーションを行い、顧客リレーションのすべてを保持したりせず、価値あるリレーションシップを形成・維持する

※キーワード:ジェイカスタマー、ロイヤルティ
7. 苦情への対処とサービス・リカバリー顧客が苦情を言う背景を理解し、どう向き合うかを示す

※キーワード:「真実の瞬間」、サービス・リカバリー
3:サービス・マーケティング戦略8. サービスのポジショニングとデザインサービス戦略とポジショニングの明確化(4Pにおける「製品」に相当)

※キーワード:ブランド
9. 補足的サービス要素による価値の付加成熟産業における競争優位は、コア・プロダクトに付加された補足的サービス要素のパフォーマンスを向上させることで追求される

※キーワード:フラワー・オブ・サービス
10. サービス・デリバリー・システムのデザインサービス・デリバリーの「いつ」「どこで」「どのように」についての広がりを見る

※キーワード:サービススケープ
11. サービスの価格とコスト何に対して支払っているか明確な物財との比較から、無形のサービス・パフォーマンスの料金について考える

※キーワード:サービスの非金銭的コスト、純価値
12. 顧客エデュケーションとサービスのプロモーションプロモーション活動における情報提供は顧客エデュケーションにも有用
4:マーケティングとオペレーション、人的資源管理の統合13. サービス・マーケターのための諸ツールサービス・デリバリーのフローチャートを見ながら、サービスプロセスを理解する

※キーワード:劇場のアナロジー、OTSUとISSO、
14. 需要と供給能力のマネジメント物財とサービスとの差異に「在庫がない」点があげられる。供給能力と需要を理解し、需要のマネジメントを行なう
15. 行列と予約のマネジメント需要が供給能力を超過する場合の需要保持の施策として行列や予約の活用を謳う

※キーワード:イールド・マネジメント
16. サービス従業員:リクルートからリテンションまでサービス組織では人的資源に投資する必要があり、採用・訓練・モチベーション・リテンションが重要であることを説く

※キーワード:エンパワーメント、イネーブルメント、失敗サイクル、劣悪サイクル、成功サイクル
(表:ラブロック 他『サービス・マネジメント原理』第2部以降の構成)

 

以下、気づいたり考えたこと。

  • 上述したように、本書に書かれている内容は「サービス」に提供している組織にいる者にとってはいずれも馴染み深く、課題の整理によい。一方で、「サービス」というもののなかで人的要素がいかに重要な位置を占めているかには気づかされた。
  • ゆえに、特にサービス組織の人的マネジメントについて扱った第16章は興味深い。こと「ハイ・コンタクト・サービス」においては従業員は「フィジカル・エビデンス」(無形のサービスにとって、サービスのクォリティを感知可能なものとするための代替物。視覚的な手がかり)であるということや、それゆえにどのような訓練を施すか、またそもそもどのような人物を採用するべきかなど、そのまま事業運営のヒントとなるような内容が書かれていて有用。
  • 本書を読みながら、自分自身も「サービス・エクスペリエンス」を気にしながら日常生活でサービスを利用していた。そうすることで、本書の説く「サービス・マーケティング」や「サービス・マネジメント」を提供者側・顧客側の両面から立体的に理解ができたように思う。たとえば、Rettyに書いたラーメン屋に関するこのレビューなどはその試み。ここではオペレーション(サービス・デリバリーや、行列のマネジメント)や、サービス組織の従業員の訓練やモラール、顧客同士のポジティブフィードバック(「プロダクトの一部としての他の人々の存在」, p.19)、それらの結果としての顧客ロイヤルティ… などのテーマを含めたつもりだ。

Written by shungoarai

2月 23rd, 2017 at 1:00 am

[BookReview] 鈴木良隆 他『ソーシャル・エンタプライズ論』

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▼Week06-#01:鈴木良隆(編)『ソーシャル・エンタプライズ論』(有斐閣, 2014年)

感想:★★★★☆
読了:2017/02/11

第6週目の課題図書は、先週の課題図書に引き続いて一橋の経営学修士コースの講義をもとにした書籍で、もともと「企業家と社会」という科目での講義をまとめたもの(リンク:著者による解題)。編者が先週の図書の著者と一緒ということもあり、後半のいくつかの章(特に第10章「日本における企業の出現と社会」での日本企業の労働力の確保の仕方と、それによる労使関係に関する議論の箇所)は内容的にも重なる部分もありました。

上記のリンク先で著者が自ら書いているように、もととなった科目「企業家と社会」が講義されているときに発生した東日本大震災後のことが本書の内容にかなり色濃く反映されています。震災の復興の火急性によって日本においてもソーシャルエンタープライズ(社会起業)への眼差しが変わったと見ているであろう本書では、グラミン銀行(Wikipedia)や『Big Issue』(Wikipedia)といった世界的に見たソーシャル・エンタープライズ一般の話も取り上げつつ、日本におけるソーシャル・エンタープライズというテーマでうまくまとめた本だと思いました。

以下、メモ。

  • 欧米各国でソーシャル・エンタープライズが発生してきた経緯と、その議論をそのまま適用しにくい日本の状況とを、本書を通読することで整理できる。第6章「ソーシャル・エンタプライズのフロンティア」では、米国では1960年代後半以降の公民権運動・反戦運動・消費者運動・環境運動などによって企業に社会的責任が求められたことや、1980年代以降のレーガン政権下でNPOセクターへの予算が削減されたこと、また英国では1990年代後半の労働党政権によってソーシャル・エンタープライズが政策に組み込まれてきたことが背景として説明される。また、第9章「ソーシャル・アントレプルナーの源流」ではさらに遡って、ロバート・オウエン(Wikipedia)やサン=シモン主義(Wikipedia)といったところにまで源流を探っている。一方、「欧州各国における協同組合の発展や、雇用の主体としてのソーシャル・エンタープライズを位置づける議論の前提条件を、日本社会は必ずしも共有していなかった」(本書, p.30)。
  • いくつかの事例を挙げながら、本書では日本でのソーシャル・アントレプレナーシップの萌芽を好意的に見つつも、そのハードルもまたいろいろと挙げられている。人材もしかり、起業環境もしかりである。
    • 日本型雇用習慣のなかで、労働人口の大半を企業社会が独占していたことが、専門的な人材や労働力のパブリック・セクターへの流入を阻害した。畢竟、担い手は(企業社会からの安定した家計に支えられた)主婦と、現役を退いた高齢者中心にならざるをえなかった。(同, p.31)

    • 社会的包摂と雇用の担い手として、パブリック・セクターとソーシャル・エンタプライズを活用し、創業を積極的に促進してきた欧州や韓国とは異なり、ソーシャル・エンタープライズのみならず起業全般が低迷しているのが日本の現状である。(同, p.37)

    • 日本のソーシャル・エンタプライズは確実に多様性を増し、新規の創業も相次いでいる。だが、そもそも営利企業の起業も容易でない日本社会のなかで、社会領域を対象とした新しい主体が着実に成長軌道に乗ることができるかは未知数と言わざるをえない。(同, p.61)

  • 本書が特徴的であるのは、「ソーシャル・エンタープライズ」論でありつつも、それを通じて「企業」論となっている点だ。それはもともとが「企業家と社会」という講義として企図されたものだからであろう。序章と終章ではシュムペーターを引用しながら、「企業〔エンタープライズ〕とは『新結合』〔イノベーション〕を遂行することであり、あるいはそれを遂行する組織体のことである」(同, p.12)と強調される。ゆえに、ソーシャル・エンタープライズとは「従来の課題を、その解決の仕方を変えること」(同, p.260)であり、それは極めて技術経営的なテーマであると言える。

▼アントレプレナーシップに関する読書リスト

No.読了日評価書名著者名
12017/01/10★★★★☆『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』P.F.ドラッカー
22017/02/11★★★★☆『ソーシャル・エンタープライズ論』鈴木良隆 (編)
32017/03/04★★★☆☆『アントレプレナーシップ入門』忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎
42017/03/17★★★☆☆『アントレプレナーの戦略論』新藤晴臣

Written by shungoarai

2月 12th, 2017 at 10:00 am

[BookReview] 鈴木良隆 他『MBAのための日本経営史』

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▼Week05-#01:鈴木良隆・橋野知子・白鳥圭志『MBAのための日本経営史』(有斐閣, 2007年)

感想:★★★☆☆
読了:2017/02/05

第5週目の課題図書は、一橋のかつての経営学修士コースで講義されていた「日本経営史」の討議資料をまとめたという本書。タイトルとは裏腹に、ビジネススクール的な内容というよりは、しっかりと研究書的で読むのには結構時間を要しました。

ことさら「日本経営史」と銘打っていたり、そもそも一橋のコースでの講義ということもあってか、日本の(どちらかというと)古くからの企業に勤めている方々が知っておくと良いかもしれない戦前から2000年代初頭(本書は2007年刊行)までの日本の産業史と、そこにおける「大企業」と「中小企業」というプレイヤーについてさまざまな角度から扱っています。通史的な内容もあれば、仮説を立てて検証をしていくという章もあります。

具体的なケースや他国との比較、通史的な内容を扱った各章については比較的読みやすかったものの、統計的な仮説検証や少し深掘りされた金融制度史に関する章は読みでがありました。難解な部分はとりあえず各章の章末のサマリーでキャッチアップはなんとかキャッチアップはしたものの、何度か読み返さないと理解できていない気がする。

以下、まとめや考えたこと。

  • 「大企業」と「中小企業」について一冊を通じて論じているが、本書ではそこに単純なヒエラルキーを見いだすのではなく、エコシステムのようなものを想定している。すなわち、「大企業と比較して規模の経済性を追求しない分野での分業を担い、経済環境の変化に耐える強靭性を備えていた」(本書, p.270)ことで存続しえた中小企業や金融機関などの「サブシステム(中略)さらには国の政策によって維持されたひとつの『体制』」(同, p.290)によって大企業の安定的地位は支えられていたと見る。「それは『市場経済』とは別の、一国的な経済の仕組みであった」(同, p.290)とあるように、本書中でも英独などの国々との比較をしながら、大企業の安定的な状態(本書では『大企業体制』と呼称)は普遍的ではないと論じている。
  • 「大企業体制」の特質として、「第一に、日本では、同一産業中の大企業が、規模において著しく異なってはいない。同じような規模の企業がいくつも併存している」(同, p.141)、「第二に、その製品構成、技術、市場においても、日本の大企業は同一産業内において互いに類似していた」(同, p.142)という二点を挙げている。著者は終章でこうした状況は終焉を迎えていると言うが、このややもすると同質的な戦略を取ってしまいがちなことはいまだに多いのではないかという気もする。日本企業のDNAレベルにそうした性質があるとすれば、それに対しては意識的である必要がある。
  • 本書では日本企業における雇用・労使についても詳述されている。それらは日本企業の「競争優位」の考え方とも表裏一体のように思われる。日本の産業の国際競争力については1章を割いて詳述されるが、「1970年代初頭から1980年代半ばにかけて一群の産業の分野の盛衰は(中略)労働コストの優位から価値連鎖におけるコスト優位へというコストの源泉の変化を示しているにすぎない」(p.258)という看破は秀逸で、この「コストによる差別化」以上に付加価値をつけていくことは生産性の観点からも、また昨今の「働き方改革」の観点からも重要。

Written by shungoarai

2月 6th, 2017 at 1:00 am

[BookReview] チェスブロウ『OPEN INNOVATION』

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▼Week04-#01:H. チェスブロウ『OPEN INNOVATION』(産業能率大学出版部)

感想:★★★★☆
読了:2017/01/26

第4週目の課題図書は、先週に引き続きハーバード・ビジネス・スクールのチェスブロウ教授の著書『OPEN INNOVATION(原題 “OPEN INNOVATION: The New Imperative for Creating and Profiting from Technology”)』。クリステンセン教授の『イノベーションのジレンマ』と並んで「新たな古典」としての地位・定評のある書物で、またとても平易に書かれた入門的な書でもあります。

本書は、大企業の企業内研究所主導による従来型の「クローズド・イノベーション」と呼ぶべきアプローチは現代に合ったものではないため、一社内で完結しない新たなアプローチ(=オープン・イノベーション)を指し示す一方、このアプローチは決して技術開発という閉じたコミュニティのみで議論されるべきではなく、「ビジネスモデル」と合わせて検討すべきだと示しています。

Xeroxの独占から脱出し、Ethernetを商品化したRobert Metcalfeによれば、これまでのイノベーションに対するアプローチは、大企業に独占を許すかわりに、大企業に基礎研究をしてもらうというものであった。
これは過去には正しかったかもしれないが、知識が普及した社会において、企業内に知識を閉じ込めて、その企業のビジネスに必要なときのみに使用するといった方法はもはや通じない。(チェスブロウ『OPEN INNOVATION』pp.202-3)

本書は以下のように構成されています。

構成内容
導入序章第2〜3章で詳述されるクローズド・イノベーションからオープン・イノベーションへの「イノベーションのパラダイム・シフト」を先取って説明。
問題提起第1章Xerox社の社内研究所「PARC(Palo Alto Research Center)」は、今日のPCやコミュニケーションを支える技術開発に大きく貢献し、またAdobeなど、スピンアウトして成功したベンチャー企業も輩出したが、Xerox社への利益には寄与しなかった。問題の所在を「イノベーションのマネジメント」に見る。

※キーワード:チェスとポーカー、テクノロジーとマーケットの双方の不確実性のマネジメント
歴史的背景第2章大企業の社内研究所によるイノベーション・プロセスである「クローズド・イノベーション」の成立背景を米国史の文脈から整理した後、社会やベンチャー企業を取り巻く環境の変容によって「研究」と「開発」との間のギャップが広がった結果、このアプローチが時代遅れとなっていったさまを説明する。

※キーワード:中央集権的・垂直統合的、規模の経済・範囲の経済
歴史的展望第3章前章の内容を受け、「アイデアは社外に豊富にあり、優秀な労働者も中途でいくらでも採用できる状況」下では新たなイノベーション手法が必要だと論じる。一方、「オープン・イノベーション」は社内の研究部門を不要とするということを意味するのではなく、その役割を変容させるという。

※キーワード:知識結合
別の視座の持ち込み第4章テクノロジーは、それ自体では価値を生まない。新しいテクノロジーを新しいマーケットに結びつけるにはビジネスモデルを必要とし、その追求こそが企業のマネージャーの仕事だと論じる。

※キーワード:支配的ロジック、テクノロジーに適合した正しいビジネスモデル
各社事例第5章IBMの事例。
1) オープンなテクノロジーによる顧客のビジネスのサポート
2) 知的財産権のライセンス
第6章インテルの事例。独自のテクノロジーを持たない企業の、イノベーションのマネタイズ方法。
1) 専門特化型の研究活動
2) 大学や外部研究所とのネットワーク、資金提供による成果へのアクセス
3) インテル・キャピタル
第7章ルーセントの事例。社内の知識を市場化する方法。
- NVG(社内ベンチャーキャピタル)によるテクノロジーのビジネス化
知財戦略第8章オープン・イノベーションの世界では、自社の知的財産権を自社で利用するということにとどまらず、他社にライセンスすることで自社内で活用されてない知的財産権から利益を上げることもできる。
いずれの場合も、知的財産権の価値はビジネスモデルに依存するため、テクノロジーにとって有効なビジネスモデルを探すことが重要。
結び(実行戦略)第9章社内でオープン・イノベーションを起こすための方法。
(表:チェスブロウ『OPEN INNOVATION』の全体構成)

 

以下、ざっくりと感想です。

  1. 各社の事例を挙げてはいるものの、全体的にはマクロ・一般的な「イノベーションのあり方」論とその移ろいについて書かれた書物であり、潮流を理解するための本。それゆえに「技術経営」ジャンルの本流とも言える。
  2. 一方、概説的なので、最終章(第9章)を除くと実務的ではないかもしれない。実務家がアクチュアルに捉えることができるとしたら、自社が「クローズドイノベーション」型のプロセス・アプローチを選好する企業である場合は危機感を提示してくれたり、その打開方法を案内してくれるであろう。そういう意味でも、本書は大企業の人に向けたものになっているように思う。
  3. 関連書籍:
    • 本書でも著者が批判を加えている企業の「中央研究所」の日本でのあり方や、日本での事例を取り上げて解説しているものには榊原清則『イノベーションの収益化』(有斐閣, 2005年)がある。
    • 前述の通り、本書はすぐれて「ビジネスモデル」について論じた本である。「オープン・イノベーション戦略」が奏功する場合の所与の条件として「補完材」の有無による違いなどを挙げていることからは、ガワー&クスマノ『プラットフォーム・リーダーシップ』(有斐閣)もまた参考になろう。

 

Written by shungoarai

1月 28th, 2017 at 12:00 am

[BookReview] クリステンセン『イノベーションのジレンマ』

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▼Week03-#01:C. クリステンセン『イノベーションのジレンマ(増補改訂版)』(翔泳社)

感想:★★★★★
読了:2017/01/22

第3週目の課題図書は、ハーバード・ビジネス・スクールのクリステンセン教授の名著『イノベーションのジレンマ(原題 “The Innovator’s Dilemma – When new technologies cause great firms to fail”)』。書名は広く知られているものの、きちんと読まれたことのない本の代表格であるようにも思います。邦訳書 巻末の「解説」にも書かれているように、本書はクリステンセン教授の先行するさまざまな論考をもとにまとめあげられており、それらの一部はビジネススクールでの教科書として定評のある『技術とイノベーションの戦略的マネジメント(原題 “Strategic Management of Technology and Innovation”)』(邦訳書)にも収められています。

身の回りで本書が言及される場合、「旧来の大手企業(かつてイノベーションを成し遂げた企業)は、自らの収益性を保たんがために、新たな破壊的技術を市場にもたらす新規参入企業に対する有効な手を打つことができず衰退する」という運命論的なアウトラインのみが語られることが多いように思います。しかし、実際の本書では、前半で「イノベーターのジレンマ」(多くの人が本書に対してイメージしている内容)をいくつかの事例を通じて一般化をしたのち、後半半分は「では、それに対して旧来の大手企業はいかに『破壊的イノベーション』に対処すべきか」について細やかに書かれています。

本書は以下のように構成されています。

内容
第一部「優良企業が失敗する理由」優良な経営を行なう大手企業は破壊的イノベーションに直面したとき「イノベーターのジレンマ」と呼ぶべき状況に陥り、業界リーダーの座から転落するという傾向をさまざまな業界の例を見ながら導く。
第1章ディスクドライブ業界のイノベーションの歴史を概観しながら、既存の大手企業が従来の大手顧客に縛られる形で持続的イノベーションを進めていくなか、新規企業が技術的には簡単な「破壊的イノベーション」によって下位市場へと参入し、次第に上位市場へと進行するパターンを見いだす。
第2章存の大手企業が前章に見るような失敗を犯す理由として、従来語られる「組織の官僚化によるリスク回避傾向(企業文化)」や「抜本的新技術には全く新しいノウハウが必要」といった理由ではなく、「バリューネットワーク」という概念での説明を試みる。
ここでは、第1章に見たディスクドライブ業界のなかでも、5.25インチドライブから3.5インチドライブへのシフトに手こずったシーゲート・テクノロジー社の例を見ながら、破壊的イノベーションに邂逅した際の大手企業の意思決定パターンを解説する。
第3章別の業界(掘削機業界)での例をもとに、ディスクドライブ業界から見出されたパターンの一般化を図り、善良な経営者による安定経営のパラダイムは、破壊的技術を扱うには役に立たないことを示す。
第4章バリューネットワークの考え方(特にコスト構造)をもとに、既存の大手企業は下位市場を狙った破壊的イノベーションへの資源配分を行なうことができないことを、1.8インチディスクドライブや鉄鋼業界におけるミニミルを例に示す。
第二部「破壊的イノベーションへの対応」第一部で示された「イノベーターのジレンマ」に対して、いかに既存の大手企業が対処しうるかを論じる。
第5〜9章第二部の冒頭で示される、破壊的技術に直面・失敗した企業の5つの原則ひとつづつに対して、各章で対処策を挙げる。
第10章第一部の「イノベーターのジレンマ」仮説と、第5〜9章で挙げたアプローチをもとに、架空のケース(電気自動車技術への参入)における意思決定をシミュレートする。
第11章まとめ
(表:クリステンセン『イノベーションのジレンマ』の全体構成)

 

以下、ざっくりと感想です。

  1. 上にも書いたように、本書は単なる運命論の本ではなく、いかに危機をもたらしうる状況に対して対処すべきかという問題に対して現実的な処方箋をも提示している(その意味で、巻末の解説にあるとおり「『学問的厳密性と実用的応用性』を両立した希有な書物」という評は、当を得ている)。
  2. 本書のなかでも、とりわけ第2章(「バリュー・ネットワークとイノベーションへの刺激」)と第9章(「供給される性能、市場の需要、製品のライフサイクル」)の2つの章は、とりわけ熟読に値すると感じた。
    • 第2章の重要な部分は「バリュー・ネットワーク」として提示される概念そのものである。ある製品を構成するさまざまな部品の一切合財を含めた「入れ子構造になった商業システム」(クリステンセン, p.66)のことである。この考え方が重要なのは、この章以降の本書では「各バリュー・ネットワークのコスト構造は、どのようなイノベーションが利益に結びつくと企業が考えるかに、多大な影響を与える」(同, p.71)という原則を前提とするからである。
    • 第9章で重要なのは、「破壊的イノベーション」の生まれる経緯と、その後の見通しを簡潔にまとめている点だ。この認識は、技術企業で製品を考える上で(自社の製品や他社の製品はいまどのステータスにあるのか)非常に助けになると思う。
      • 〔大手企業の〕技術者は、市場が必要とする以上の、あるいは市場が吸収しうる以上のペースで性能を高めることができた。歴史的にみて、このような性能の供給過剰が発生すると、破壊的技術が出現し、確立された市場をしたから侵食する可能性が出てくる。(同, p.247)

      • 一般に、ある特性に対して求められる性能レベルが達成されると、顧客は特性がさらに向上しても価格プレミアムを払おうとしなくなり、市場は飽和状態に達したことを示す。このように、性能の供給過剰は競争基盤を変化させ、顧客が複数の製品を比較して選択する際の基準は、まだ市場の需要が満たされていない特性へと移る。(同, 251-2)

  3. 本書の優れた点は、「イノベーション」や「破壊的技術」を技術的な問題ではなく、より一般的に捉えていることで、それゆえ「技術企業」以外(本書中で触れられている例としては、ウォルマートなどの小売業)にも適用しうるものとなっている点である。破壊的イノベーションを製品化し、その提供価値に適合した市場・顧客を見つける試みはすぐれてマーケティング上の課題だ。また、組織内での意思決定に関する考察の部分では、従業員というものが結果・業績によって「評価を受ける」人びとであるということに留意し、そのために合理的な判断をする(非合理的な選択肢を排除する)ということを前提に置いている点は、企業の経営・マネージメントに関与している者にとっては学びが大きい。
  4. そういえば、以前読んだ(内容はだいぶ忘れた)任天堂のゲームクリエイター 横井軍平氏によるフレームワーク「枯れた技術の水平思考」というのは、本書で「新技術はいらない。それはむしろ、実証済みの技術からできた部品で構成され、それまでにない特性を顧客に提供する新しい製品アーキテクチャーのなかで組み立てられる」(同, p.285)と言われる「破壊的技術」のことに他ならないのかもしれないと思った。

Written by shungoarai

1月 22nd, 2017 at 3:30 pm

[BookReview] カーツワイル『シンギュラリティは近い[エッセンス版]』

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▼Week02-#02:R. カーツワイル『シンギュラリティは近い – 人類が生命を超越するとき[エッセンス版]』(NHK出版)

感想:★★★★☆
読了:2017/01/15

第2週目の2冊目は、未来学者レイ・カーツワイルの『シンギュラリティは近い』。2005年に出版された “The singularity is near”(邦訳『ポスト・ヒューマン誕生』, 2006年)のエッセンス版。一冊を通して扱う技術的特異点(シンギュラリティ)とは、「われわれの生物としての思考と存在が、みずからの作りだしたテクノロジーと融合する臨界点であり、その世界は、依然として人間的ではあっても生物としての基盤を超越している」(『シンギュラリティは近い』p.15)と説明されています。コンピュータの計算能力の飛躍的な向上がさらなる技術革新の速度を速めていき、脳と機械が接続されたり、ナノボットテクノロジーによって人間の身体・脳の能力が強化(enhanced)された結果としてシンギュラリティ=「人間の能力が根底から覆り変容するとき」(同, p.107)へ2045年頃に到達すると予測している本です。

10年ほど前に原書『ポスト・ヒューマン誕生』(邦訳)を読んでいた際も難解に感じていた箇所――たとえば、本書の第三章にあるような物質のコンピューティング能力のくだり(「岩はどれくらい賢いか」p.97 等)や、第四章の人間の脳の構造のリバースエンジニアリングに関する細部、終盤近く第六章での「シンギュラリティ」到来後の哲学的議論など――は、10年経ったいまでも難解で、3割程度も理解できたかどうかわかりませんが、本書は「進歩は指数関数的に成長する」という原則に沿って書かれているので、そのことを念頭に置いて各分野でどのようなことが起きるかを予測した第五章を読むことで、だいたいのアウトラインは掴めます。

以下の点について学びや気付きがありました。

  1. 技術進歩のスピード予測についてわれわれは保守的になりがち。これはシンギュラリティについてばかりでなく、より身近な領域(仕事で触れる技術など)でも同様であって気をつける必要がある。啓蒙時代のヨーロッパの知識人間で巻き起こった「新旧論争」でよく使われた表現のとおり、われわれは「巨人の肩の上」(Wikipedia)にいるわけで、つまるところ現在の技術革新のスピードは、これまでの蓄積を利用できるために、過去の革新のスピードよりも速いはずなのである。
    • 人はたいてい、今の進歩率がそのまま未来まで続くと直感的に思い込む。長年生きてきて、変化のペースが時代とともに速くなることを身をもって経験している人でさえ、うっかりと直感に頼り、つい最近に経験した変化と同じ程度のペースでこれからも変化が続くと感じてしまう。なぜなら、数学的に考えると、指数関数曲線は、ほんの短い期間だけをとってみれば、まるで直線のように見えるからだ。そのため、識者でさえも、未来を予測するとなると、概して、現在の変化のペースをもとにして、次の10年や100年の見通しを立ててしまう」(p.18)
  2. カーツワイルはシンギュラリティが引き起こしうるデフレや、人間の「強化」について楽観的であるようだが、特にシンギュラリティの初期にあってはそのコストの高さから、強化ができる人・できない人の差が生まれるように考える。大きな格差が生まれることについて覚悟する必要があるように思う。
  3. 英オックスフォード大 マイケル A. オズボーン准教授の2013年の論文「雇用の未来 – コンピューター化によって仕事は失われるのか」(The future of employment: How susceptible are jobs to computerization?, PDF)を発端にして、各種メディアで「あと10年でなくなる仕事」が話題になった結果、さまざまな専門職において「単純作業はAIに任せて、より付加価値の高い業務(コンサルティングなど)にリソースを割いて生産性を高めよう」式の議論がなされているが、これは技術の進展のスピードを甘く見積もっているように思う(上記1で挙げた「直線」的な変化として捉える認識に寄りすぎている)。おそらくは、その付加価値が高く、クリエイティブな業務もAIに代替されていこうというなかで、いかにAIをうまく業務に取り込んでいき、サバイブしていくかを考えていく必要がある。


Written by shungoarai

1月 15th, 2017 at 9:31 pm

[BookReview] ドラッカー『イノベーションと企業家精神[エッセンシャル版]』

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▼Week02-#01:P.F. ドラッカー『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』(上田惇生訳, ダイヤモンド社)

感想:★★★★☆
読了:2017/01/10

第2週目の1冊目は、ドラッカーの名著。しかし、完訳版は結構な分量なので、まず一巡目は「エッセンシャル版」でショートカットしてしまいました。それでもかなり濃い内容になっています。

本書の趣旨は、いかに「イノベーション」という営みをサイエンスし、きちんとマネジメントできる(つまり企業活動へと適応させる)かということ。原題は “Innovation and Entrepreneurship” となっていますが、「アントレプレナーシップ」とはいうものの、けっして起業家・創業者に絞ったようなテーマを扱っているわけではなく(特に第2部で扱っているように)ベンチャー企業のみならず、民間の既存企業やあるいは公的機関すらもその扱う対象として含め、いかに新たな事業を仕立てるかを体系的に考察しています。

「イノベーションの機会」を扱った第1部(「7つの機会」を順に挙げて考察しています)もさることながら、企業の管理職の視点からは、イノベーションのマネジメントを扱った第2部と、どういう戦略を取るべきかを概観した第3部にとても学びがあると感じました。

この書籍のよいのは、単にきれいに整理をするに終わらずに事例を挙げ、特徴・前提・条件・制約などを検討しているところです。そして、章立てもまた各章内の論理構造もかなり明解なので、読みながら迷子になったりしません。座右に置いて折りに触れ読みたい本だと思いました。だからKindleで購入したのは正解。

「イノベーション」や「企業家精神」を「仕事」と断じ、よくあるように「才能やひらめきなどの神秘的なもの」とすることなく、あくまで企業活動の範囲内にある(むしろそうあってこそ事業として成功しうる)と描いた本書は、実践家にとってとても役立ちそうです。

▼アントレプレナーシップに関する読書リスト

No.読了日評価書名著者名
12017/01/10★★★★☆『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』P.F.ドラッカー
22017/02/11★★★★☆『ソーシャル・エンタープライズ論』鈴木良隆 (編)
32017/03/04★★★☆☆『アントレプレナーシップ入門』忽那憲治, 長谷川博和, 高橋徳行, 五十嵐伸吾, 山田仁一郎
42017/03/17★★★☆☆『アントレプレナーの戦略論』新藤晴臣


Written by shungoarai

1月 11th, 2017 at 2:00 am